29
「いやー…お兄さん弱いねぇ」
愛槍じゃなくて最高傑作たる無銘と無名を使ってるのに未だに俺が優位に立ってるとか…
これならこの前戦った元同期の元一位ランカーの方がまだ強いぜ。
「…なんだと?」
「なーんか剣帝って呼ばれてて、剣の扱いでは右に出る者は居ないとか言われてるからどれほどのモンかと思ったけど…」
こんな俺相手にこんな無様な状況晒してるなんて名前負けもいいとこだ…とバカにするようにため息を吐きながら肩を竦めた。
これなら武装服でフル装備なんてしなくても良かったかもなー…
噂に流されて過大評価しちまったか。
「…無様、だと…?」
俺の言葉が剣帝の地雷に触れたのか静かに怒ってるような声になる。
「だってそうだろ?俺ごときに一太刀も掠らせる事さえ出来ずに逆に攻撃は避け切れない…コレを無様と言えずになんという?」
ワザと怒らせて本当の全力を出させるためにどんどん挑発した。
だってこのまま負かしたら俺が圧倒的に強いみたいに思われるじゃん?
そしたら警戒されて後々面倒だし。
だから、あくまでギリっギリで…俺が運良く勝てました!みたいな演出をしないといけないワケで。
そのためにはある程度戦いが拮抗してないと不自然に思われちゃうワケで…
俺に有利な…間違った情報を刷り込ませるためにも剣帝には頑張ってもらわないと。
そう…アイツは意外と弱かった、俺が本気を出せば何時でも勝てるから警戒するまでもない。
的な事を思わせる事こそが後々を考えれば重要になってくるんだなー、コレが。
まあ武装服を着てるからこそ…俺が圧倒的なこの状況、からでも間違った情報を相手に与える演出が出来るんだけどね。
いやー…前言撤回、前言撤回。
やっぱり武装服でフル装備してきて良かったわー。
「…いいだろう、そこまで言うのなら本気を出して貴様を殺す…『剣帝』の真価をとくと味わえ」
剣帝は静かな声でそう言うと柄を両手で握って構える。
「ふっ!」
「おうっ」
普通の奴からしたら、まさに目にも止まらぬ速さと言うべきスピードで距離を詰めて剣を振り上げた。
…余裕でガードは出来たもののさっきよりも強い衝撃におもわず無銘を上に弾かれる。
「くらえ…旋風斬」
そのまま剣を振り切った勢いを利用して一回転して俺の胴を狙って斬りかかった。
「ぐっ…!?」
「…なに…?」
普通ならブリッジして避けるが…今回は避けずにあえて食らう。
するとガッ!と音がして俺は強い衝撃に耐え切れず吹っ飛ぶ。
俺を力技で吹っ飛ばした剣帝は手応えに違和感を感じたのか眉を顰めている。
「いてて…くそっ、あばらが折れたかも…」
ワザと痛くもない脇腹を押さえて立ち上がった。
「普通だったら真っ二つだったかもしれん…」
ちゃんと剣帝に聞こえるように、中に仕込んどいて良かったー…と独り言を言う。
「…やはり何か仕込んでいたか…」
呟くや否やまたしても普通の奴からしたら目にも止まらぬ速さで距離を詰めて剣を突き出す。
「がっ…!?」
狙われてた場所が腹だったので反応出来ないフリをしてあえて食らい…またしても吹っ飛ばされる。
「ぐっ…この…」
「…さっきまでの威勢はどうした?」
ワザとゴロゴロ転がりながら受け身を取って素早く立ち上がると後ろから声が聞こえた。
「ぐ…う…!」
振り下ろされる剣をギリギリで受け止め、いかにも力負けしてますよー…的な感じで小刻みに震えさせる演技をする。
…もうそこからは一方的にやられるだけ。
だが武装服のフル装備のおかげでダメージは全く無い。
まあ衝撃はあるから打撃的な多少のダメージはあるけど…
それでも俺からしたら無いに等しい。
「いざ本気を出してみれば口ほどにもないな…」
「それは…どうかな…」
「なっ…!」
10分ほど一方的にやられる状態でかなりのダメージは受けたけどなんとか立ち上がれた…的な振りをすると剣帝が驚く。
「まだ…立ち上がれるのか…!」
まるでゾンビを見るような目で見て呟いた。
「…ここからは、俺のターンだ…」
いかにも大ダメージを負ってます的な感じでそう言って無銘を鞘に納める。
とりあえず七転抜刀でも食らわしとくか。
どうせ一回じゃ死なないだろうし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます