30

…やめた。



万が一でも腕とか脚を斬り飛ばして五体満足じゃなくなったら調停者になんか言われそう。



一応人間側の特戦力だしねぇ…



とりあえず両手両脚に結構な深さの傷を負わしてから刀をぶっ刺して終わろうっと。



「くっ…!」


「…げほっ、狂嵐の…」



険しい顔になり焦るような剣帝の攻撃を最小限の動きで避けダメージがあるように見せるため咳をしながら刀と剣に手をかけた。



何かしらの技名を言おうとしたが…



俺の想像…妄想力?ではこれ以上思いつかなかったのでとりあえず剣と刀を抜刀しざまにXのように斬る。



「ぐあっ…!」



深くもなく浅くもない手応えによし!と内心喜びながらすかさず右手を返して斬りつけた。



「ぐっ!」



剣帝は血を流しながらもなんとか剣でガードする。



が、左手にも無名を握ってるんだなー。



「ぐっ!う…!こ…の…!」



まるで最後の力を振り絞るような俺の連撃にガードが間に合わずどんどん傷が増えていく。



…あくまで最後の力を振り絞ってるフリだよ?



「…これで、終われ!」


「…っ!?」



俺は叫ぶと同時にちょっと本気を出して剣を弾き腕をぶった斬った。



そして左手の無名で腹を貫く。



「…ぐっ…はぁっ…!はぁっ…!」



いかにも力尽きました…みたいな感じで膝立ちになった剣帝から無名を引き抜いてよろけながら後ろに下がり地面に座り込む。



「き…さま…!」


「はぁ…!はぁ…!…まだ、動けるのかよ…!」



腹に手を当て立ち上がる剣帝を見ながら息を荒げながら、ありえない…!的な声で驚く。



「くそ…俺の身体…動け…!」



剣帝が落とした剣を拾いに行くのでとりあえず声だけ演技する。



どうせ背を向けてるからただ座ってるだけ、とかバレないだろ。



「…こ、ここまでやれたのは…がはっ!師匠以外では…き、貴様が初めてだ…!褒めて、やろう」



剣帝は残った左手で剣を拾うと血を吐き、血だらけの身体を引き摺りながら俺に近づく。



ええー…まだ戦る気なの?死にかけてんだから一旦退けよ。



「…その、右腕…早く処置しないと、元通りにくっつかないぞ…」


「…右腕一本で貴様を殺せるなら…安い犠牲だ」



どうやら本気で俺を殺そうとしてるらしく全然退く気がない。



「…俺はもう動けない…が、だからといって、俺は殺せねぇよ」



バタッと前向きに倒れてうつ伏せになった。



これで顔や首の露出してる部分無くなったから止めは刺せなくなったワケで。



「…戯言を…死ね…!」



剣帝が倒れてる俺に斬りかかる。



が、やはりガッ!と音がしてフードの部分で止まった。



…なんかツッコミとかで頭を叩かれたような衝撃だぜ…



「くっ…!だが…」



懲りずに剣先を首の所に乗せる。



一点集中で突き刺すつもりか…全力時ならイケたかもしれんが今のボロボロの状態じゃ無理だって。



「ふっ!…なに…!?」


「だから無駄、だって…コレは特殊な魔術加工がされてんだよ…」


「…魔術加工だと…?くっ…次はその情報を漏らした事を後悔させてやる…!」



剣帝は悔しそうに苦々しく呟くと剣を鞘に納めてから右腕を拾う。



「…日比谷さんが生きているかもしれない、という情報を得られただけでも収穫か…」



ボソッと零したかと思えば剣帝の姿が消えた。



「…あー…やっと終わったぜ…怠かった」



周りに人の気配が無い事を確認して普通に立ち上がり服を叩いて埃を落とす。



ったく…武装服のフル装備じゃなかったら危ねぇ攻撃ばっかだったな。



でもまあ、剣帝が有利なドロー状態にも持ち込めて良かった良かった。



全力を出してる時は手も足も出ずに全く歯が立たない…ってのを演出できたかな。



俺が攻めた時も全力時の約半分…だいたい50%ぐらいまで落ちて来たのを狙ったおかげで大して怪しまれずに終わる事が出来たぜ。



それに…あの怪我が完治するまでには最低でも二週間はかかるだろ。



治癒魔術を使って…な。



これでアイツが少年側に現れる期間を伸ばす事にも成功っと…



さてさて…疲れたけど調停者に報告でも行きますかねー…



そんで髪型変えてー、無名と無銘を刀にしてー、声も変えてー…



少年達が泊まってる宿屋に戻る、と。



一仕事終えたっつーのにまた仕事に戻るってのもねぇ。



ブラックだ!と声を大にして訴えたい所だが、そんな事をしたら大変な事になってしまう。



…一応世界を安定させる仕事?なんだからブラックでもしゃーねぇーべ?



ホワイトじゃどう考えても無理だし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る