9
俺の研究をパクって得た名声のための偽名らしいけどな。
「…奴らは遠の字の知り合いなのか?」
「え、知らなかったの?俺の幼馴染のアイツらの偽名だよ?」
疑うようなトーンで聞いて来たので俺は軽くびっくりしながら返す。
「…そうか、奴らの本名…どこかで…と思ってたが…そういう事だったのか」
今更分かったのか調停者は納得したような感じで呟く。
「まあ、操者の事は後であいつらに聞いてみるとして…この街に使者は居る?」
「…残念ながらもうその街には居ないようだ、今一番近い使者はそこから少し離れた街で情報収集している」
使者の所在を聞くと少し間を空けて期待していたのとは違う答えが帰ってきた。
「マジでー…?」
「今からその街に向かわせる、早くても一時間ぐらいはかかるだろうが…」
面倒くせぇ…と思いながら聞き直すと調停者はわざわざ使者をこの街に来させてくれるつもりらしい。
とりあえず使者との待ち合わせ場所を決めて声を戻す。
「んんっ、んーんっ…あー、あー、よし」
そして操者の事を聞くためにマキナに電話。
「もしもーし」
「あ、マキナ?あたしゃだけど」
「えっ!?程人君!?うそっ!どうしたの!?」
やる気の無さそうな挨拶から一転してなぜか一気に嬉しさと焦りが混じったような声に変わる。
「急にお前の声が聞きたくなってな」
「…え…?程人君…死ぬの…?」
なんでやねん!
まさかの好感度を上げるつもりで言ったセリフが死亡フラグに取られるっていう。
思わず心の中で単調なツッコミをしてしまった。
…え?なに?俺がキザな事を言ったらアイツらには死亡フラグだと思われてるの?
「…死んでほしいの?」
「えっ…うーん…」
即答で却下されるであろう反語を言ったのに予想外の反応。
…え?好かれてると思ってたのってもしかして俺の勘違い…?
「死んでほしくは無いけど、人間いつかは死ぬって良く言ってるし…」
「…人間じゃなくてもいつかは死ぬけどな」
死なない物体は『生物』じゃない、不老不死だっていつかは死ぬ。
『生物』である以上は。
たとえロボットのような無機物だって年月を経れば朽ちて無くなるし。
一生存在するモノはもはや概念だろうよ。
「…程人君が死んじゃったら私も死のうかな…」
少しの無言が続いた後にマキナがボソッと呟く。
重っ!え…?どういう真意でそんな重い事を呟いたの?
「…そうだ、程人君が死にかけてる時に一緒に心中すれば…!」
マキナは電話越しに、良いこと閃いた!みたいなトーンで話すが内容はクッソ重い。
「いやいや…なんで俺、もう直ぐ死ぬ予定なん?」
「今どこに居るの?」
急に暗いトーンから明るくなったけど…
病んでるように聞こえるのは俺の錯覚か?
「別にどこだって良いだろ」
「むー…ねぇ、程人君は私が死んだら悲しい?」
聞きたい事を全く聞けずに会話がズレにズレる。
「そりゃ悲しいに決まってるだろ」
「じゃあ死んでくれる?」
「なんでだよ…」
意味の分からん切り返しをため息を吐きながら一蹴した。
「死んでくれないの?じゃあ私が程人君を殺しちゃうよ?そうしたら一生ワタシノモノ…うふふ」
なんか知らんがマキナがだんだん病んでるキャラになって来てるんだが。
「お前…あの試験薬飲んだ?」
「え?うん…なんで分かったの?」
やっぱりか…おそらくマキナの変化はあの性同一性障害改善薬の所為だろう、と思ってたよ。
「そりゃお前の事が好きだからな、好きな奴の事ぐらい分かるっつーの」
『好き』の意味がlikeかloveかは置いておくとして…
こう言えば多少は話が進むだろ。
「えっ!///程人君からまさかの告白!?///」
「彼氏居る奴に告ってどうすんだよ…電話した本題に入るぞ」
電話越しにキャーキャー舞い上がってるマキナの反応にまたため息を吐いてやっと本題に入れる。
「本題?私の声が聞きたかったんじゃないの?」
「ああ、間違えたコレはついでだ…丁度お前が知ってそうな事だったんでな」
不思議そうに聞いてきたマキナを刺激しないように慎重に言葉を選ぶ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます