39
「突然の巨大ワーム出現、その後に謎の男の登場…ですか」
受付嬢は出来事を整理するように呟きながらキーボードを叩く。
「カル兄の言う通りいきなり現れて、いきなり消えたんだ」
「…さながら幽霊のごとく、と言うべきか…」
俺は少年の説明の後に独り言のように言う。
「あの…その人は?」
さっきから気になってたんであろう受付嬢が、ようやく聞けた…みたいな感じで質問する。
「ああ、危ない所を助けて貰ったんだ」
「あ、そうだったんですか」
「…でもなんであんな所に?」
今になって疑問に思ったのか少年がそう聞いた。
「…鉱山に魔物が増えた、と聞いてな…準備運動のつもりで退治しに、だ」
どう返すのが正解なのかを考え、おそらく仲間になれるであろう返事をする。
「準備運動のつもりで、って…」
「そういえば入口の所で炭鉱員からギルドの人が先に入って行った、と聞いたが…」
「え?…もしかして他の地方から来たギルドの方ですか?」
「違う、炭鉱員が勝手に勘違いしただけだ…」
三人揃って俺を見るがどこ吹く風…的な態度でそう返した。
「勘違い…と言う事はギルドに所属されてるとか、そういう方では無いんですね?」
「ああ、ただ流れているだけの放浪ニートさ」
「放浪ニートって…」
「つまりは旅人か」
俺の自虐的な言い方に少年は苦笑いし青年は普通の感じに言い直す。
「いつまでこの村に滞在するおつもりですか?」
「…さあ?」
いつまでって言われてもなぁ…
少年がこの村を出るまで、ってしか言えんけど。
しかもソレを言ったら怪しまれるからさあ?ってしか返せん。
「気が向くままの放浪だ…決まった期間居るワケでは無い」
「そうですか…そこそこ腕が立つようなので、出来れば臨時でミルディのお手伝いをして貰いたかったのですが…」
なぬっ!?なんだその俺に都合の良い展開は!
一気に考えてた手を減らせるんだ、ソレに乗らぬ手は無いだろう!
「…今夜、食事をご一緒して貰えるのなら考えてみよう」
「「えっ!?」」
突然の受付嬢のナンパに少年と青年が驚く。
「お食事『だけ』なら喜んで」
「えっ!?」
だけ、を強調してニッコリと笑う受付嬢に少年がまたしても驚いて青年は軽く笑い内心何かを考えている。
「ふむ…決まりだな、よろしく頼む」
「では一時協力員という形で登録しますので…名前を伺えますか?」
受付嬢は画面から目を離さずにキーボードを叩きながら問いかけた。
名前?名前か、さて何にしようかね…………おっ!良いのを思いついたぞ。
「…俺の名はナナシという、ゴンベーとも呼ばれてたりするが…」
考えてる間を焦らしてるように思わせるために受付嬢をチラッと見てから答える。
「ナナシ…?ゴンベー…?」
異国出身以外で『名無しの権兵衛』なんて言葉を知ってるハズが無いだろ?
つーワケでカタカナにすれば名前にちょうど良いと思わない?
「ナナシ・ゴンベー?変わった名前だな…」
「違う、俺の名前はナナシ…ゴンベーはあだ名のようなもの…」
少年がフルネームと勘違いしだしたのでため息混じりに訂正した。
「ナナシさんですね……はい、登録完了です」
「俺はミルディ=ローン、よろしくお願いします」
「カルロイ=マッソンだ、カールと呼んでくれ」
「ナナシだ…よろしく頼む」
少年や青年から差し出された手を握って自己紹介が終了する。
「では次の依頼ですが…」
「えっ!?もう!?」
「いえ?急ぎでは無いから少し休んでからまた来てね、と」
「…なんだ…」
あの雑魚ミミズとの戦いで疲れてたのか続く受付嬢の言葉に少年は安心したかのように息を吐く。
「依頼の期限は?」
「明日まで、迷子になった猫を探して欲しいって内容だからそう難しくもないわ」
何かを考えてるような青年の質問に心の内を読んだかのように笑顔で言う。
「ふむ…ミルディ、どうせなら受けてたらどうだ?もしかしたら休憩中に見つかるかもしれんぞ?」
「うーん…そうだね、ウル姉その依頼受けるよ」
「分かったわ、でも無理はしないでね?」
…部外者が入り込めるような雰囲気じゃないので空気を読んで黙ってるが…
なんだこの疎外感は!まあさっき知り合ったばかりの部外者なんだからしゃーねーけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます