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あの後、話の途中でリザリーから逃げ出したエルーが飛び込んできたっていう。



そしてソレを追うようにリザリーも飛び込んできて、もはや話どころじゃなくなり…一応暗殺を受ける事に。



かつての上司に頭を下げられたら断るわけにもいかんだろ。



標的の詳しい情報は翌日って事で元上司は夜も遅いのに泊まらずに帰って行った。



帰る前にマキナにちゃんと軽く報告したらしい。



マキナもほんの少し焦ってちょっと謝ったよ~って笑ってたし。



まあ知らなかったとはいえ、ユニオンのお偉いさんにあの威嚇するような態度は…ねえ?



普通の奴だったら即解雇で牢屋行きだよ。



あいつらは実力も立場も貢献度も高いから何も無く穏便に済んだけどさ。



いやー…それにしてもリザリーの仕返しがエグい。



エルーを失禁させるってのはギリ有りだとしても、勃たせたままの失禁ってのはヤバいだろ。



下手したら尿が袋の中の方に流れて病気になる可能性だってあるわけだから…



リザリーはその危険性をあまり良く分かってないようだったから、軽く説明したら渋々別のに切り替えてくれた。



つーわけで、ただいま戦闘中。



あ、俺がじゃないよ?エルーとリザリーの二人がだよ?



リザリーが仕返しに人体実験しようとしたらしいけど、ソレが必要な研究が今は無いんだと。



だからエルーを縛ってシバき倒そうとしたら抵抗したと。



んじゃあもう戦っちまえ!って事で研究所の近く?の森で激しいバトルが繰り広げられてる。



ああ、森への被害を抑えるために魔術は禁止。



因みに俺とマキナは審判という名の観客。



寝てる所を無理やり起こされて連れて来られた。



「いやー…互角だねぇ…ふぁ~…」



俺は眠そうにあくびをしながら呟く。



だって今深夜3時だぜ?あいつら一晩中揉めてたのかよ。



「ただいま深夜3時、真っ暗闇の森の中で鉄同士がぶつかる音や鞭の風を切り裂く音が聞こえまーす」



マキナは某ドッキリ番組のような囁くような声で今の状況をレポートした。



…俺は普通に昼間のようにあいつらの動きが見えるけどな。



「実況の遠間さんにお話を伺いたいと思いまーす」


「はい、こちら実況の遠間でーす、いやー…お互いに一歩も譲らない激しい戦いが続いてますねー」



とりあえずマキナの反応を見るためにそのノリに乗る事に。



「………あ、はい」



え、乗るの?みたいな微妙な驚き方をして反応に困ったような対応になる。



「いやー、サナンカさんの動きが良いですねー…今まではクレインさんの剣と鞭の二段構えに対しては双剣で対応してたんですが、今回は右手の剣で鞭をガードし左手で鞭を掴み引っ張る事により体勢を崩させスキを作ってそのスキを狙ってますよー」


「あ…そうですか…」



マキナは微妙そうな言葉で返し、意外な事にちゃんと実況できるんだね…と呟いた。



「更に二人ともこの暗闇というハンデをものともしてない!」


「まあ少しでも相手が見えれば動きの予測はつくからね」



某ドッキリ番組のレポーターキャラは飽きたのか普通に素に戻っている。



ええー…お前が始めた事なのに俺より先に飽きるってあり?



「こんな所に居たのか」


「んあ、その無駄に良い声は…」



マキナの言葉を最後に黙って二人の戦いを見てると元上司が懐中電灯を照らしながら歩いてきた。



「こんな真っ暗な所で何をしてるんだ?」


「二人の戦いの審判兼観客、懐中電灯が点いてると見にくいから消して」


「あ、ああ…闘い?見えるのか?」



私には音しか聞こえんが…と元上司は音がする方を見ている。



「俺は見えてるけどこいつらはどうだろうな」



普通の人だったら視覚と聴覚を最大限まで研ぎ澄まして尚且つ直感を頼りに戦ってるようなもんだし。



風、衣擦れ、足音…少しでも聞き逃したら直ぐにやられるだろう。



それだけレベルが半端なく高い戦いだってこった。



「なぜ身内同士でこんな事を?」


「さあ?修行とか特訓とかそういうもんじゃね?」



エルーが勝てばお仕置きは無し、リザリーが勝てばエルーはシバき倒される。



リザリーは勝っても負けてもデメリット無しだし腕を磨ける良いチャンスだと思ってるかもね。



それに…瀕死の大怪我を負っても魔札で治せるし、最悪死んでも俺が生き返らせれる。



だから見た感じ二人共本気で戦ってるっぽい。



お互いに殺すつもりでやってるだけに『闘い』じゃなく『戦い』だ。



「私も参加したいな~」


「止めとけ、エルーが不利になるだけだぞ」



マキナが参戦したらもっと面白くなるだろうが流石にそれではエルーが不憫になる。



「それもそうだね…」


「で、准将さんはこんな朝早くから何の用?」



朝早くっつーかまだまだ深夜なんだけど…まあいいか。



「資料を持って来たんだが研究所が閉まっていてな、そこら辺を歩いてる人に聞き回って来た」


「そりゃ御苦労さん…くぁ~あ…」



あくびをしながら元上司から紙束を受け取った。



元円卓の騎士ねぇ……称号はボールス?どっかで聞いた事あるような…



現在ユニオンと対立してる国に渡り、戦争の火種になるような事を仕掛けてる…か。

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