37

「出来れば空いてる部屋をお借りしたいのですが」


「…ついてきて、お茶をお願いできる?」


「あ、はい…分かりました」



女子研究員が歩いて行くのを見てマキナも歩きだした。



「今はコッチが空いてる」


「ありがとうございます、出来れば彼と二人で話をさせてもらえませんか?」


「はあ?野郎二人っきりがいいとか…てめぇまさかソッチ系か?」



俺はヒいた雰囲気を出して二、三歩後ろに下がる。



「いえ、内密な話ですので」


「…分かった」



分かった!?了承すんな!え…?もしかしてこんなおっさんと二人っきりで話しすんの?



「ちょっ…」


「でも、後から軽くでいいから説明してもらうよ」


「感謝します」



え、ええー…と思ってる俺を他所にマキナは早足で部屋から出て行く。



「さて、久しぶり…と言いたい所だが早速で悪いが君にはある人物を暗殺してもらいたい」


「その前にあんたの素性を明かせよ、この研究所に無断で入った奴がまさか一般人や下っ端なワケじゃねえよな?」



あの態度を見る限りでは不法侵入なんて後からどうにでもできる、って感じだったし。



「覚えてないのか?」


「友達か相当アクの強い性格じゃねぇと俺の記憶には残らねぇよ」



その相当アクの強い性格ってのも=ど変態、みたいなモンだけど。



「…そうか、そう言えばお前は何かと忘れっぽい性格だったな…失念していた」


「で?もう回りくどい事は無しにしろよ」



俺がそう言うと男はんんっ、と軽く咳払いした。



「私は表向きはユニオン軍准将で、兼任として裏では超特殊暗殺部隊司令官をやっている…君の元上司だな」


「……その暗殺部隊の名前ってもしかしてドッペルゲンガー?」


「そうだ、思い出したか?」



………おぅ…なんてこった…かつて、俺がまだ暗殺科に在籍してた時の上司じゃねえか。



「なんで俺の事を知ってんの?」


「サナンカやクレイン、クルシェイルらとあれだけ派手に色々やっておいて身に覚えが無いと?」



まあそう言われちゃあ何も言い返せねぇけどさ…でも。



「俺は身分上既に死んでるんだぜ?」


「そう、ソコが気になる所だが…まあサイボーグにでもなって生き返ったと思えばあり得なくもない」


「いやあり得ねぇだろ、なんだよサイボーグって」



生きてる人間をサイボーグ化できる技術はあっても死んだ人間をクローンで、しかもサイボーグで復活させる技術なんてこの世界にあるかー!



魔界にも天界にも冥界にもそんな技術は無いわ!



「そう無理やり納得しないと腑に落ちないのでな」


「ま、そこら辺はさて置き…なんで今更部隊から追い出された俺に頼むんだ?」



実は、ドッペルゲンガーは常に9人でなければならない。という暗黙の絶対的な了解があってだな…



基本的にメンバーの入れ替えとしては誰かが死ぬか、再起不能になれば候補者が後釜に就く仕組みになっている。



その仕組みのおかげでメンバーの年齢はバラバラ、一番上は50歳から一番下は13歳まで。



んで基本的な入れ替えに当てはまらない俺がなぜ部隊から追い出されたのかと言うと…



俺よりも能力が秀でていて更に暗殺に優れた奴が現れたから。



成績はトップでもステータス値がワーストじゃん?



だから俺はソイツと強制チェンジされた。



なにより面白いのが、暗殺部隊を除隊された瞬間…何故か暗殺専攻からも弾き出されたってば。



だからしょうがなく諜報専攻したワケだけど…まあ俺はソレで良かったと思ってるけどね。



情報を手に入れるための方法も学べて、暗殺に役立つような事もいっぱいあったし…



そのおかげで更に暗殺技術がレベルアップしたから。



ふーむ…と思い出に耽ってると目の前の元上司は俺にどう言おうか迷ってるっぽい。



「俺が既に死人だから色々便利だってか?」


「ソレもある…が、下手に部隊を減らしたくないという考えもある」


「へぇ?そんな難しいのが標的ねぇ」



あのドッペルゲンガーでさえ失敗する可能性のある奴とか…どんな奴よ?



とは言え俺が在籍してた頃と今とではメンバーが大分違いそうだがな。



多分俺が在籍した頃は全盛期とはいかないまでも、相当ヤバかったと思う。



かなり半端ない奴らの集まりだったもんなー…



部隊が集結するってのは一度も無かったけど。



「なにせ標的は元円卓の騎士だ…今まさにユニオンを裏切ろうとしている」


「…だから時間が無いと?」


「お茶お持ちしました~」



せっかくシリアスの雰囲気だったのに、女子研究員のお姉さんのおかげで崩れてしまった。



「ありがと」


「いえいえ、ごゆっくり?」



まさかの疑問系の言葉を残して足早に部屋から出て行く。



なんだそのBLのナニカを期待しているような目は!何もないぞ!?



「…相手が元円卓の騎士では流石のドッペルゲンガーといえども少々分が悪い」


「昔はそうでも無かったのになぁ」



本来なら相手が人間ならば誰でも殺せる、って奴らの集まりだったのに…



時間の流れと言うべきか時代の流れと言うべきか。



とにかく質の低下とは恐ろしいもんだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る