36

「よし!持って来たぞ!」



二人でどうしようかと考える事およそ3分。



エルーが両手に何かを抱えながら戻ってきた。



…左側にリザリーの着替えとペットボトルで右側にモップとバケツ…?



「さあ掃除の時間だ」


「あっ!んんっ…!」



息を切らしながらリザリーにペットボトルを渡しその場から退かせる。



因みに今現在もリザリーは疼く身体で動けずに悶絶中。



おそらく無理に動いたら理性が飛びそうなんだろうと予想。



「データも大分取れたし…もういいか、ホラよ」


「ひぅ!…んぐ…んぐ…」



手のひらに錠剤を乗せただけなのに達しやがった…



もしかして俺が思ってる以上に強力なのか?



とりあえずこの後に着替えるっぽいので掃除の終わったエルーと共に部屋を出る事に。



「どんまい、骨は拾ってやるよ」


「…時間…巻き戻せないか?」


「『時間を巻き戻すだけ』なら出来るぞ?」


「本当か!?なら頼む!リザリーが漏らす前まで戻してくれ」


「はいよ」



エルーの必死な懇願に適当に返事した。











「で、どれくらいかかるんだ?」


「は?もう戻したけど?」


「…嘘だろ?5秒前と何も変わってないぞ?」


「お前バカか?時間を巻き戻せば記憶も経験も何もかも全てあの時間に戻るに決まってんだろ」



だからあの時まで時間を巻き戻そうが記憶も戻る…そうなりゃどうせその時と同じ言動を取るんだ、状況としては何も変わらんぜ。



俺はそう言ってあくびする。



「ほとんど詐欺に近いぞ」


「騙しちゃいねぇよ、ちゃんと時間を巻き戻すだけって言ったじゃねえか」



記憶はそのままなんて言った覚えはないし、そもそも記憶をそのまま戻した所でお前がその時の事をど忘れしてるだけ…って可能性もあるだろ?



「つまり今の現実からはどうやっても逃げられない、と言う事か…」


「そゆこと」



諦めな…と言ってため息吐いたエルーの肩を軽く叩く。



「くっ…」



リザリーからの仕返しを恐れてなのかエルーの手が微かに震える。



「まあそう悲観的になるなって、もしかしたらコレが最良の選択だったかもしれんぞ?」


「最良の選択?」


「おう、もしかしたら俺らは何十回何百回と時間を巻き戻してる…と考えてみろ、そう出来たらどうする?」


「そんなもん…もちろん自分に都合の良い展開になるような選択をするに決まってるだろ」



何をバカな事を…みたいな表情で返された。



「だろうな…で、もし目の前に少し悪い、かなり悪い、最悪の選択しか無かったら何を選ぶ?」


「はあ?そんなの少し悪いに決まって……はっ!」


「気付いたか?人生良い展開になる選択肢もあれば悪い展開になる選択肢もある、今回のはその中でも…まあ少し悪い。の選択肢だと思えばそう悪い気もしないだろ?」



人生楽ありゃ苦もある。



避けられない苦だとしても…選択肢の中では最も軽い苦だ!と思えば気は楽になるだろ。



なんせ他の選択肢にあるのはかなり悪い展開と最悪なんだからな。



下手すりゃリザリーをもっと怒らせる選択肢もあったワケだし…



ま、なんにせよ結局はただの気休めにしかならん。



「あの、エルーシャさんに面会を求めてるお客さんがいらっしゃってますけど…」


「俺に?」


「はい」


「…?今日はもう遅いから明日にしてくれ、と伝えておいてくれないか?それに…」



エルーは少し考えた後にそう言い、なにかを言いかけた時に俺らが背凭れてたドアが開いた。



「エールー…ちょぉっとこっちにいらっしゃい…」



そして明らかに上辺だけ笑顔を貼り付けたリザリーが顔を出す。



「それに?」


「俺は、逝くかも知れん…テイト後は…頼む…!」



カランカラン!とモップが床に倒れさながらホラーのごとくエルーが部屋の中に引きずり込まれる。



…中ではこれからホラー映画顔負けの展開になるだろう事を予想して俺は手で十字を切った。



「キリスト教のお祈りですか?」


「ああ、形だけでもアイツの無事を祈ろうと思ってな」


「?無事を…?」



女子研究員がよく分からなそうに首を傾げると部屋の中からマキナが出てくる。



「エルーにお客さんが来てるの?」


「あ、はい…なんでも急ぎの用らしく…」


「やはりココに居たか」



女子研究員が言いかけると廊下の向こうからさっき公園で聞いた声と同じ声の男が歩いて来た。



「ココは関係者以外立ち入り禁止区域だよ?許可無しに入って来た場合は住居建造物及び重要施設内不法侵入…病院送りにされても文句は言えないね」



マキナが女子研究員を庇うように前に出て男に告げる。



「これはこれはマキナ・クルシェイル所長…すみませんが今回だけは大目に見てもらえませんか?なにぶん急ぎなもんで…」



男はある程度まで近づくと頭を下げて謝った。



「急ぎ?」


「ええ、そして私が用があるのはそちらの方です」


「あ?俺?」


「はい、是非とも私達に力を貸していただきたい」



頭を上げ俺を指差すと胡散臭い笑顔を浮かべる。



「話だけでも聞いては貰いませんか?」


「…チッ、まあいいだろう」



なぜ俺がこの場所にいる事を…しかもエルーやマキナの事まで分かってるんだから只者じゃねえな、こいつ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る