10
そして息を吹いて火力を調整しながら燻す事20分。
簡易的な燻製肉の出来上がり。
「はいはーい、サイコローストが出来たよー…お一人様二個限り」
リザリー達と精霊達を合わせて50人はいかないぐらいだから…100個で足りるだろ。
「美味しそう!」
「冷めない内に並べ、そしてどんどん取れ」
「集合!ココに一列に並べ!急げ!」
エルーが教官ばりの言い方で命令すると研究員達は素早く整列した。
「一人二個だそうよ、二個以上取ったら…クビにするから」
リザリーは恐ろしい事を言って自分の皿にサイコローストを二個乗せる。
「ほら、先頭から急いで取っていかないと冷めるよ!」
「「「は、はいぃぃ!!」」」
まるで軍隊のようだ…
研究員達は緊張しながら焦って皿に移す。
「あっ…!」
当然そんな風に焦ってると中には落とす人も…
今回はブルーシートを広げてないので落ちた先は地面。
「あ…」
「早くして!後ろがつっかえるじゃない!」
「は、はいぃ…!」
落ちたのを残念そうに見てた女子研究員は後ろの方の女子研究員に急かされ一個しか取れずに離れて行く。
「もったいね」
俺は特に気にせずコンロの下に落ちている肉を拾って食べた。
地面に落ちたのをいちいち気にしてたら戦場じゃ餓死すんぞ。
全員(精霊含む)がサイコローストを取り終わると網の上には6個の余りが。
「ちょっとソコのおねーさんとソコのおねーさん」
余ってるならば…と思い最初に落とした人とさっき落とした人を手招きしながら呼ぶ。
「…?なんですか…?」
「さっき落として一個しか食べれなかったっしょ?コレ、一個ずつ貰っていいよ」
「「え!?」」
おねーさん二人は驚いて俺を見た後に何かを気にしてか、リザリーの方を見る。
「…なに?」
「いえ……やっぱり貰えません」
「私も…」
さっきのクビ宣言が効いてるのかおねーさん二人は渋々断った。
「別に構わないわよ?貴方達は一個しか食べれなかったのでしょう?」
「落ちたのは俺が食ったしな」
「「でも…」」
やっぱりクビ宣言が頭をよぎるのか肉から目が離せないくせに渋っている。
「要らないんなら別にいいよ?他の人にあげるから」
「「貰います!!」」
…結局貰うんかい。
おねーさん二人は嬉しそうに一個ずつ食べて笑いながら歩いていく。
「残り4個だな…!」
『遂にマスターと我々との雌雄を決する勝負をする時が…!』
「エルー、コレはユリ達に譲ろうぜ?アイツが手伝ってくれたからこんな早く熟成出来たんだし」
『ふっ…戦わずしての勝利…か、ユリに感謝だ』
なんでたかが余った肉の争奪戦ごときでこんな熱くなってんだよ。
ってか俺…この究極の肉とも言えるコレをあの落ちたサイコロースト二個だけしか食べれてないっていう。
捌いたのも、仕込んだのも、切って焼いたのも…
全部俺がやったのに全然食べれなかったってある意味凄くね?
どんだけ尽くすタイプなんだよ、って話だよな…
まあ味は分かるし、コレよりも美味い肉を食った事があるから別に気にしねぇけど。
「あ…そうだリザリー、アレ書いた?」
「ええ……はい」
「んじゃ、送ってくるわ」
ショコラの所にこの究極の肉を送る時に何も無かったら怪しまれてそのまま捨てられそうなので…
『究極の熟成肉!この世界で一番の最高級品!』
っていう字をリザリーに紙を書いてもらった。
あの字はエルーとマキナ考案。
俺はポーチから折りたたみ…(以下略)して肉をあっちの研究所の冷蔵庫の中に影移動させる。
あ、真空パックの中に3kgのブロック肉を入れて、その上から紙をペタリだよ?
ピピピ…ピピピ…
ん?電話…?誰からだ?
「もしもし?」
「あ、ていと?」
なんだショコラからかよ…
「なんだ?」
「肉貰ったから、ありがとう!」
「わざわざそのために電話して来たのか?」
「え?だって『究極の熟成肉』って書いてあるから…直接お礼言った方がいいかな?って」
そんなん次会った時に言えば良くね?
「はいはい、どういたしまして…次会った時には感想聞かせてな」
「うん!今日の夜に早速ハルト達と食べるね!」
電話が切れたので、俺は庭に向かった。
「どう?ショコラから電話あった?」
庭に出ると研究員達が片付けを済ませていて、指示を出してた?マキナが俺に気付いて寄ってくる。
「お前が電話したのか?」
「うん、一応知らせておこうかと思って」
…なるほど、マキナが事前に知らせてたからあんな早いタイミングで電話きたのかよ。
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