43

「遊んでないで次行くわよ」



あとちょっとで封鎖地域外…って所で藍架が俺の前に立ち塞がった。



「ありゃりゃ、行動が読まれてた?」


「どうせ本気で逃げてないクセに」


「バレてたかー」


「普通は本気で逃げるんなら地面じゃなくて建物の上を走るでしょ」



そりゃそうだ、でも…さっき追いかけて来てた女の子達はソレに気付いてたかな?



「流石、良く分かってるね~…で?次はどこだ?」


「府中市」


「…ここ、文京区だぜ?」


「そうね、だから行くのは私とあんただけよ」



藍架はさらりと俺を巻き込んだ発言をする。



「他の人達はこの周辺に出現した妖怪を倒してもらう」


「他の人達ってあの女の子達か?なんでまた俺らだけ…」


「なんでも府中市にかなり強い妖怪が現れたそうで…応援を要請されたの」



…マジで?もしかして藍架の給料が高いのって…面倒ごとを進んで受け入れてるからか?



にしても遠いな~…普通なら電車で移動する距離だぜ?



走って移動するには距離があると思うが。



「時間が無い…サッサと行くわよ」


「ちょっと待て、ココで俺が手品を見せてやろう」


「手品?ふざけてる時間は無いの」



俺を明らかにバカにしたような目で見たあとに睨む。



「まあまあ騙されたと思って…まず目を瞑って」


「…はぁ…こう?」



藍架はため息を吐きながらも素直に目を閉じた。



「そうそう」


「きゃっ!ちょっ…!」



俺はニヤリと笑って藍架をお姫様抱っこするように持ち上げる。



「まだ目を瞑っとけよ」



周りを見渡して人気と人目が無い事を確認して影移動した。



「…もういいぜ」


「ちょっ…!」



藍架が目を瞑ってるのをいいことに頬にチューして地面に下ろす。



「…何がしたかったの?まさかホッペにチューしたかっただけ?」


「まあソレもあるが…手品だよ、周りを見てみ?」


「?……!?」



俺の言葉に促されて周りを見ると何かに気づき、驚きのあまり声も出ないようだった。



……わお、コレは二重の意味でびっくりだな。



藍架がある一点から視線を動かさない事を不思議に思って振り向くと…



なんとソコには15mを超えるでっかい妖怪の姿が。



「あ、アレは…だいだらぼっち…」


「マジでぇ?あのくっそデカイ妖怪か」



とりあえずココは現場から離れてて状況がよく分からないため、近くに移動してみる。



……忍者(男)が約50名程で雑魚+だいだらぼっちと戦っていた。



うっわぁ、超面倒くさそうじゃん…見なかった事にして帰りてぇ。



「行くよ」


「…止めとこうよ」



藍架は俺の言葉を聞かずに躊躇いもせず戦場に飛び込んで行く。



おいおい少しは躊躇えよ…ったくお前は勇者か。



勇者=勇ましい人、勇気のある者、勇士。



危険を恐れずに困難に立ち向かう心の強い人の事を指す言葉だ。



まさに今の藍架にピッタリな言葉じゃね?



ソレに引き替え俺は…ホント真逆だよなぁ、その方がある意味姉弟っぽいけどさ。



…などと落ち込んでいても始まらない。



見せてやろう、勇者とは真逆の臆病者の戦い方を。



勝てる!と思った時にしか出さない卑怯者の技を。



…俺は変なテンションになりながらポーチから小瓶を取り出す。



中の液体を地面に零すとプルンと丸いスライム状になる。



「んじゃ…標的は女の子以外で、建物は壊さずいこうか」



スライム状の物体を持ち上げてだいだらぼっちの上の方に思いっきりぶん投げた。



飛んで行ってる最中にどんどん姿が小さくなっていき…



だいだらぼっちの上に到達する頃にはスライム状の物体の姿がもう見えない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る