20
「程人、さっきは…」
「んあ?ああ、気にしなくてもいいよ…まさかあんな一面があったなんてなー」
フライパンを洗ってると母さんが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「なになに?何があったのー?」
「内緒だー、俺だけが知ってる母さんの知られざる一面だよ」
「えー…二人だけの秘密ってなんか怪しい…」
「ははっ、羨ましいか?それよりサッサと食べて準備しないと学校とか仕事に間に合わないんじゃないか?」
フライパンを拭きフックにかけて母さんの両肩を掴み反転させ、少し押してイスに座らせる。
「程人…」
「おっとぉ、コレは思いのほか簡単に母さんを落とせる予感がするぜ」
「程人まさかお前…!母さんを狙ってるのか!?だとしたら許さんぞ!」
「うっせえよ役立たず、てめえに母さんは勿体無いんだよ…とは言え決めるのは母さんだけどな」
逆に、役立たずに勿体無い=俺にも勿体無いって図式が出来上がるような気が…まあ親子だしソレは仕方ない事か。
「とりあえずサッサと食えよ役立たず、皿が洗えねえじゃねぇか」
愛梨はすでに食べ終わっていてシンクに食器を置いて部屋に戻っている。
母さんも黙々と食べ進めておりもうすぐ食べ終わりそうだ。
役立たずの皿にはまだ半分以上も残っているのに。
「おまっ…!父親に向かってその口の聞き方はなんだ!」
「ああ?尊敬できねぇ奴に使う敬語なんてこの国にはねえよ」
敬語や尊敬語、丁寧言ってのはな…
相手に敬意を表して使う言葉なんだよ。
そんで敬意は尊敬。
尊敬っつーのは自分より優れてる人に思う事だ。
つまりは…尊敬できねー奴には使う必要は無いって事だろ?
意味合い的にはそうなるから、言葉を『正しく』使うのなら役立たずにはタメ口で十分。
ってかこの国おかしいぜ?
ただ年上ってだけでなんで尊敬しないといけないわけ?
早く産まれただけのくせにそれで偉いとかありえなくね?
ただ早く産まれただけのお前の何が俺より優れてるの?って思わね?
自分より仕事ができる、運動ができる、勉強ができる、とかなら分かるよ?
それと腕っ節が強いとか。
だけど…そうでもない、ただ早く産まれただけの奴に敬語って矛盾してね?
明らかに言葉の意味を理解して使ってない証拠だろ。
………あ!そうか…分かった!
バカにしてるのか!それか皮肉とか!
あなたは俺より優れてないけども、まあ一応?優れてる事にしときますよー(笑)的な。
そうか…そういう事だったのか…だからみんな…
でも世の中には皮肉が通じない奴もいるし。
みんな皮肉られてる事に気付いてないんだ。
確かに、知らぬが仏。という諺があるが…
これは…うん、他の人には言わない方がいいかも。
知らぬが仏。
「前々から思ってたけどな…!それが産んでくれた親に対する態度か!」
「うっぜぇ…役立たず、お前さ、今、かなりウザいよ」
「な…!」
「産んでくれた親?産んだのはお前じゃなくて母さんだろ、お前が腹痛めたのか?産む時の激痛を味わったのか?しかもよ…なんだその押し付けがましい言い方は」
「ごちそうさま」
…まだ言ってる最中だったのに…
母さんは手を合わせて食器をシンクに置くとリビングから出て行った。
「おい役立たず…俺もな、前々から思ってたんだよ」
「なにをだ」
「お前も母さんもさぁ、押し付けがましいんだよ」
産んでくれてありがとう?
産まれてきたいと望んだから産まれてきた?
勝手に産まれてきた?
産まなければよかった?
バカ言ってんじゃないよ。
望んだから?望むだけの考えなんてまだ持ってねえよ!どこの世界に思考できる胎児がいる?
産んでくれて?こっちはお前らの都合で産まれたんだよ!自分の都合で産まれたわけじゃねえ!
勝手にヤって、勝手に妊娠して、勝手に産んで…
コレのどこに、産まれてくる俺らの意思が介入してるんだ?
全部お前らの意思だろ?
分かるか役立たず?全てお前らの意思でやった事だ。
ヤった行為だ。
ソレを産まれてきて『あげた』俺らに責任をなすりつけるのか?
そして押し付けがましく言うのか?
勝手に産まれてきた…だの、産まなければ良かった…だのよ!
そもそもお前らがちゃんと避妊すれば良かった話だろ!?なあ!
俺らがお礼を言うのか?
自分の都合で勝手に産んだ奴らに、他人の都合で選択肢もなく強制的に産まれてきた俺らがよ!
ああ?どうした、なんとか言ってみろ。
感謝するのはむしろ産んだ奴らだろ?
自分達の独善主義のような考えで
自己中心的な都合にも関わらず
この世に産まれてきてくれて
自分の子供になってくれて
ほんとうにありがとう。
だろ?履き違えてんじゃねえよ!自己中な考えで俺らを産んでおいてふざけんじゃねえ!
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