19
「お、愛梨おはよう」
「お、おはようございます…新しいお父さんですか?」
「違う違う、お前のお兄ちゃんだよ」
「新しいお兄ちゃん…?って事は再婚!?お母さんやっぱりあのお父さんは捨てたんだ!?」
きゃー!近親相姦だー!と愛梨は顔を赤くして両手で顔を覆う。
…指の隙間から見てるんだから覆う意味なくね?
「まあ近親相姦である事に変わりはないけど…とりあえずソレを父さんが聞いたら悲しむんじゃね?」
「え…?あ、そのへんは大丈夫です!お父さんはなんの取り柄もない平凡な人なので」
お母さんと釣り合わないし…捨てられて当然ですよ!と元気な笑顔で言い切った。
父さん…あんたの見てない所で娘にえらい事を言われてるぞ。
なんだろう…俺も父親になってもし女の子が産まれたとしたら、こんな事を言われるようになるのか?
「母さん、いい加減正気に戻れよ」
「え…?あ、程人?」
「はいはい、貴女の大事な息子の程人君が帰って来ましたよー」
母さんを立たせてソファに座らせる。
「え?程人ってお兄ちゃんの名前だよね?確か昔死んだんじゃあ…」
「妖怪になって生き返ったんだよ、にしても藍架に聞いたとおり可愛いなー」
「…お姉ちゃんを知ってるの?」
「だから、お前と血の繋がってた兄だって」
いまいち信用しようとしない目で見ている愛梨を尻目に俺は冷蔵庫を開けた。
「とりあえず朝飯用意するから母さんと話でもしといて」
「わかった…」
愛梨は納得のいかないような顔をしながらも母さんの隣に座る。
目玉焼きとー、ベーコンとー……うーん…納豆。
他に白米に合うオカズはなんだっけ?
俺はパン派だからあんまり白米とか食べねぇんだよなー。
リザリー達は白米を気に入ってるようだけどさ。
やっぱり違う食文化の方が気にいるのかねぇ。
「おはよう…」
「やっと起きて来たか、この役立たず」
「!?て…!程人!?」
眠そうにリビングのドアを開けた父さんを見て料理を皿に盛りながら毒吐くと、ソレを聞きふと俺を見て絶叫した。
「うるせぇよバカ、この役立たずが!」
俺の実の父親だが男は男。
と言うか昔っから父さんにはこんな対応だ。
「役立たずとはなんだ!俺だって一生懸命頑張って働いて家族を養ってるんだぞ!」
「黙れ、ほとんどが母さんの収入じゃねえか」
「う…!だって毎日22時間働いても超せないんだからもう仕方ないじゃないか!」
「だから家庭内ヒエラルキーで底辺なんだろ」
まだ母さんが妊娠中だった頃、父さんは毎日22時間…睡眠時間がたった一時間しか摂れずに働いてたらしい。
藍架が産まれて、直ぐに俺が産まれたため、4年近くその生活を送って頑張って貯蓄を増やすために稼いでたと。
だが母さんが働き出して、たった一年でその4年分の稼ぎを超したんだって。
その話を母さんが笑い話として俺や藍架、愛梨に聞かせたもんだから…
当然家庭内ヒエラルキーを崖から飛び降りるがごとく転落。
もう這い上がれないであろう底辺になったわけだ。
因みに父さんは、今は普通の会社員として働いてるらしい。
ココだけの話…父さんは22時間働いて一時間は睡眠だった、で残りの一時間はなんと…!
母さんを欲求不満にさせないようにと、なけなしの体力を振り絞ってヤってたんだと。
ベロベロに酔っ払わせて聞き出した…愛梨には知らない事実だ。
そういや、風呂やご飯とか考えたら睡眠時間は更に減るよな…?
まあ美人で才女な母さんを手放さないために命を削るぐらい努力した、って事だろうけど。
NTR対策もしっかりしてる所が流石だと思う。
だが…だが!この話を聞いてもなお、ヒエラルキーが底辺から上がる事はありえないけどな。
あ、俺は当然ながら下から二番目だったよ?
女が多い家庭では男の地位は低いんだなこれが…
「それはそうと、程人お前…生きてたのか?」
「なわけないだろ、死亡報告書の意味分かってんのか?妖怪として生き返ったんだよ」
「それって…!母さんは!?」
父さん改め役立たずは焦ってソファに座ってる母さんの所に近づく。
「大丈夫か!?なんともない!?」
「ええ…さっきはちょっと取り乱したけど、だんだん落ち着いてきた」
…アレでちょっとか?まあ落ち着いてきてるんならいいけどさ。
俺はタコさんウインナーを焼きながら首を傾げる。
「とりあえず朝飯出来たぞ」
テーブルに置いてある丸皿にタコさんウインナーを入れて報告した。
「おー!美味しそー!」
「ほいよ、ご飯に納豆」
炊飯器から茶碗に白米をよそって冷蔵庫から納豆を取り出しテーブルの上に置く。
時計を見ると時刻はすでに7時10分になっている。
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