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血が流れ出してやっと状況が飲み込めたのか後ろの広場からかなりの大絶叫が聞こえる。
「あーあ…っと」
広場から大分離れた場所で一旦お姫様を地面に下ろして拘束してる木の板を無名で斬って解放した。
「あ、あの…!」
お姫様は自分で目隠しを外して俺の顔を見る。
「なに?とりあえず街から離れようか」
俺は面倒な事態になる前に、とお姫様の手を掴んで森の方へと歩き出す。
「助けてくれてありがとう」
「いやいや、本当に感謝の気持ちがあるなら研究を手伝いな」
「研究…?それってさっきから言ってたワクチンの話?」
「そうそれ…あ、一つ忠告しとくけど、今から行く研究所の人達には手を出すなよ?」
全く歩くスピードを緩めずにさながらお姫様を引きずるような速度で歩く。
「?どういう意味?」
「どうやら姫様は知識欲のためなら平気で人間を殺す。って事が分かったから、念のために…な」
あの研究所には美人ばっかりよりどりみどりで揃ってんだ…それに能力的にも死ぬには惜しい人材だし。
「俺の知り合いは元より…研究員達に手を出そうものなら、おそらく死ぬから覚悟が必要だぞ?」
「???私の知識を必要としてるのに殺すの?」
「ん、実はそこまで特別じゃないんだよ…言えば歯車の一つ的な感じかな?」
それに知識『だけ』を取り出す方法なら幾らでもあるし…例えばダルマとか。
俺は急に真剣な口調でお姫様を脅しにかかる。
「だ、ダルマってつまり…」
「察しの通り両手両足カット、薬を投与して精神をぶっ壊して廃人にする手もありかな?俺らが必要なのは知識…記憶なんだから」
「…!?そ、それって!」
「勘違いしないでほしいけど…何もしなければ、何もしない」
「きゃっ!」
ガッとお姫様の腕を引っ張りお姫様抱っこのように抱えて走りだす。
理由は後ろから人が追ってきたから。
馬に乗って追っかけてくるなんて卑怯だぞ!
「どうしても人体実験がしたくなったなら伝えればいい、きっとどっかから死刑囚を調達してくれるさ」
「…もう人体実験はしない、今度こそ処刑されそうだもの」
俺の服を強くギュッと握った手は小刻みに震えていた。
「そうか、まあ出来るならソレが一番だな…幸いな事にまだ戻るチャンスはあるし」
「戻る…チャンス?」
「ワクチンの事だよ、数十人の犠牲で何千…何万の人が助かるとしつこいぐらい何回も言ってるだろ?」
多少の気休めにしかならないが…未来への礎になったと思えば良くね?
死んでいった奴らも、無意味な死じゃなくちゃんと意味の有る死になったんだからきっと浮かばれるさ。
良く言う『自己犠牲の精神』ってやつだな。
いかにも人が好みそうな良い言葉じゃないか。
「戻るチャンス…変わるチャンスではなく?」
「あっはっは!人間社会には性善説っつーものがあるだろ?だから悪から善に戻るでいいんだよ」
「性善説…人は善を行うという性質を先天的に有している。…かなり昔に存在したと云われる孟子の言葉?」
へえ、良く知ってるなぁ…勉強大好きっ娘なのか?
産まれながらにして…じゃなくて先天的ってあたり言葉のチョイスが素晴らしい。
「ついでに補足するなら、善の性質を隠すためにワザと悪い事をする。って所かな…おっと」
「善を隠すための悪行??」
「ほら、ヤンキーの奴とかが恥ずかしいからって良いことを悪ぶってやる時があるだろ?…うわっ」
例えば、どっかのヤンキーに絡まれてる女の子を助ける時に『俺の縄張りで調子に乗ってんじゃねぇよ!』とか『別に助けるためにやったんじゃねえ、なんか気に入らなかったんだよ』的な?
素直になれないお年頃って感じだろうな。
「ふーん」
「困ってる人を助けるって善行を、暴力で人を痛めつけるっていう悪行で隠してるって言えば分かりやすいか?…げっ」
「なるほど!」
「ふぅ…やっと撒いたぜ、しつこかった」
まさか森の中まで追ってくるとは…ムダに奥まで来ちまったじゃねえか。
俺は一旦お姫様を地面に下ろして一息つく。
「そろそろ移動するか…ちょっとゴメンよ」
俺はお姫様の頭を掴み、ある一点を親指で強く押した。
ツボ押しマッサージ一式昏倒急。
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