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「まあこの女の子が何したか知らないけど…殺すには惜しい顔だとは思わないか?」
「バカヤロー!そいつはな…!そいつは人殺しなんだぞ!!」
「え?だから何?お前らだって動物とか虫とか殺してんじゃん、まさか…人間と虫では命の重さが違う。とか傲慢不遜な事は言わないよな?」
「「ぐ…!!」」
俺の問いかけに騒いでいた民衆達が静かになった。
「お前は!!そいつのやった事を知らないからそんな事が言えるんだ!!」
「「そうだそうだ!!」」
「俺の親友は突然拉致られてそいつに劇薬を飲まされて殺された!」
「私の娘も解剖されて、殺されたと!」
「俺の息子だって!得体の知れない薬を無理やり飲まされて死んだと言われた!」
「こんなに被害者の遺族がいるのに…!まだお前はそいつを庇うのか!?」
民衆が騒ぎ立てる中、一人の男が台の上によじ登ってきた。
「俺はこいつの所為で…!愛する妻と子供を失った!死を持って償え!」
男の手にはナイフが握られており、お姫様を刺そうとにじり寄ってくる。
「お前、バカじゃねーの?」
俺は男の腹を思いっきり蹴飛ばして台の上から強制的に退場させた。
「正直な所…お前らの話なんてどうでもいい、俺に関係ねぇし」
「「 な…!」」
「それでも人間か!!」
「お前も裁かれるべき悪だ!」
「悪、ねぇ…善悪の基準なんて所詮は人間が決める事で、自然の世界ではなんの意味も持たない無意味な言葉だぜ?」
それに俺はもうとっくに人間なんて辞めてるしな。
魔界で生き延びた俺が今更人間社会で生きようなんて微塵も思わない。
世界のルールである弱肉強食こそが全てだ。
「ココは人間社会だ!人間が決めたルールを破ったやつは人間じゃない!!」
「人間社会では悪は滅び善が栄えるべきなんだ!」
「めんどくせぇな…強い物が生き、弱い物は死ぬ。シンプルイズベスト!それでいいじゃねえか」
人間のルールに従えない奴は人間じゃない…と言うが、世界のルールに従えない奴は滅びるだけだぜ?
「じゃあお姫様を悪だと罵ってるお前らに、ココで良いことを教えよう」
「「なんだと!?」」
「ルーベラ出血熱って分かるか?ある地方だけでしか…それも稀にしか発症しないと言われてた伝染病だ」
「伝染病?ソレとこれとなんの関係がある!」
民衆達の半分は俺の話を聞くことに決めたのかヤジが減った。
「実はルーベラ出血熱はその昔、猛威をふるったエブラ出血熱の進化型だとも言われている」
「エブラ出血熱…なんだそれは?」
「今はワクチンが出来ているが、昔は無くて世界中で犠牲者を出したと言われている病だ」
「感染すると致死率70%以上で、治る見込みはゼロだったそうだぞ」
「その進化型のルーベラ出血熱は空気感染する上に致死率は87%らしい」
「そ、それがどうした!!」
ザワザワとエブラ出血熱とルーベラ出血熱の情報が広場の民衆達にどんどん伝わっていく。
「今の所…ワクチンは完成していない、なぜだか分かるか?」
「バカにするな!発症が確認されたのは50年以上も前で、発症者も三人だけで済んだからだろう!」
民衆の後ろの方に医者が居たのか、そこからどんどん情報が流れてくる。
「そう…その昔にちょろっと発症しただけのワクチンも無いような危険な伝染病、それがこの先世界中で猛威をふるう事になる」
「「「な…!!?」」」
「そして、そのルーベラ出血熱のワクチンを作るためにはこのお姫様の知識が必要らしい」
「う、嘘だ!」
「し、信じられるか!」
「こ、根拠を話せ!」
明らかに動揺したような不安に満ちたヤジになった。
「嘘だと思うならそれでいいさ、で?それでもこのお姫様を殺すと言うか?」
「「う…」」
さっきまでの怒りや憎しみ、殺意などが篭ったヤジが飛んでこない。
広場に集まった民衆達は迷ってるようだ。
「今ここでこのお姫様を殺せば、伝染病でこの先何千…何万もの人が死ぬことになるぞ?」
もちろん、お前たちの命も含まれている数字だ。とココで脅しを一つ。
「人を殺す事が悪なら、人の命を救う事や助ける事は善か?」
その考えで言えばお姫様は善人か?悪人か?と言う俺の問いに民衆は答えようとしない。
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