22

「はぁ…はぁ…!なんて事…」



アレから一時間。



地面に膝を着き息を切らしてるリザリーと一時間前の姿と全く一緒なスライム状の物体。



「どうだ?技も魔術も通用しないだろ?」


「くっ…!」



リザリーは剣を片手にスライム状の物体に斬りかかったが、もう全くダメージを与えられていない。



「はいはい、そこまで…次はどっちが行く?」


「え?いいの!?」


「ジャーンケーン…ポン!」



マキナが意表を突くように手を出したが結果はショコラの勝ち。



「やったー!じゃあ行くよ!」



相棒のココアを手にスライム状の物体に向かって駆け出した。



「うー…」


「そうむくれるなって、直ぐにお前の番が回ってくるよ」


「…ホント?」


「おう、とは言え回ってくる確率は96%ぐらいか」



もしかしたら4%の低確率でショコラが倒すかもしれんけど。



「はぁ…はぁ……ふぅ」



リザリーが戻ってきて切れた息を整えマキナの隣に座り込む。



「うん、予想通りだな」



そして更に三時間後。



時刻は既にお昼時だ。




結局リザリー、ショコラ、マキナ、エルーの4人がアレに挑んだが誰一人勝てなかった。



いや…勝てなかったと言う言葉では語弊が生じるな。



誰一人倒せなかった…が適切だ。



「ねえ、そろそろ良いでしょ?教えなさい、アレがなんなのか」


「だからー、何度も言ってんじゃん…最強のスライムだって」


「ソレは本当に何度も聞いたわ、私…いえ私達が知りたいのはもっと詳しい事よ」


「そうだよ!私達があんなスライム一匹倒せないなんてあり得ないよ!」



マキナ達は逃がさない…とでも言わんがごとく俺を囲む。



別に逃げる気はこれっぽっちもないんだが。



「いやいや恥じる事はねえよ、だって俺でも倒せねぇし」


「「「「は?」」」」



全員の間の抜けた言葉が見事に重なった。



おそらく…いやほぼ確実に、俺が本気で全力で挑んだとしてもこのスライムは倒せないと思う。




「『最強のスライム』だぜ?あの魔王様ですら倒せねえよ」



理論上は魔界でもこのスライムを倒せるのはごく僅か…片手の指でも楽々足りるぐらいだ。



理論上は。



「どういう事?」


「お前らも戦ってみて大体分かっただろ?」



殴っても蹴ってもダメージは無し

剣で斬り裂いてもダメージは無し

魔術で消し飛ばしても再生する



「ええ、でも腑に落ちない事があるわ」


「再生機能だろ?」


「なぜ直ぐに元の形に戻るんだ?」


「ありゃ言わば水の塊だからな」



今は色々と便利だからって固形の姿をさせてるが、他にも液体や気体にも成れる。



「魔術が当たったら水蒸気になっただろ?ソレはまだ生きてると言う事だ」



まあぶっちゃけ水素が存在する限り消滅する事はあり得ないけどな。



完全に消滅しないと、細胞が…水素が一つでも残ってたら直ぐに元通り再生するし。



「…!それって…!」


「そうそう、無敵の不死ボディってわけ」



俺の言葉を聞いてみんな驚愕のあまり言葉を失っていた。



「それだけじゃねえぜ?お前らの疑問はあと一つあるだろ?」



俺はスライム状の物体を手招きして近くに呼び寄せる。



「…?」


「…!?」



何をしてるんだ?という不思議な視線を向けられながらもスライム状の物体の一部をプチッともぎ取った。



「実はこのスライム、一度攻撃を受けたらソレを学習して二度目の同じ攻撃はガードするってば」


「へ?」


「お前らも体験したと思うけど…見てろよ」



手に持ってるこぶし大より少し大きめのスライム状の物体を軽く殴る。



ふにょん、と低反発のように衝撃を吸収して跳ね返された。



また同じ力で軽く殴ると今度はコツン、と硬いものに当たるような音がする。



「え!?」


「なんで…?」


「…こんな事が…!」


「…まさか!反発力の応用か!」


「おお、リザリーとエルーは分かったようだな」



この超高性能のボディは二度目に触れると一度受けた強さと同じだけの反発力を内部で生み出す。

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