19

「それは褒めてると捉えていいのだろうか?」


「バカにしてるも半分だな」



あの世界から魔界に初めて来たんならしょうがないと言えるかも。



だってあの世界の魔物ではそれでも倒せたかもしれんし。



ただ魔界の魔物はそうはいかない。



なぜなら一匹と戦ってる間に他の魔物も集まってくるからだ。



それがドンドン増えていくと…勝ち目が万に一つも無くなる。



おそらくこの男は運が良かったから、そうはならなかったんだと思う。



じゃなきゃココまで辿り着けまい。



「次の質問…いいか?」


「どうぞ、時間は限られてるぞ」


「なぜ、俺の事を知っていた?いや…違うな、なぜ俺を見て驚いたんだ?」



自分の質問に考えるようにしながら聞いてくる。



「そりゃ冒険者ギルドの前ギルドマスターが魔界に居たら驚くだろ」


「本当にそうなのか?」



男は俺を疑うように問いかけて来た。



ふーん、なかなか鋭い洞察力をしてるなぁ。



「考えてみれば君の驚き方は俺に驚いたのでは無く、俺が魔界に来た…この場合は魔界にいる…か?に驚いたように思えた」



つまりは、俺が魔界に来る事を事前に知っていた…違うか?と口角を上げて聞いてくる。



あー、あの時の驚き方一つでここまで推測されるとは…



「あってるよ」


「…さほど驚いた様子がないな」



なんだその驚いた顔は。逆ドッキリか?逆サプライズか?



俺が驚かなかった事に驚くとか…アホか。



つーかこの俺がこのていどの事を看破されたぐらいで驚くと思ってんのか?



「別に?良く分かったなー、で終わりだろ」


「そうか…どこでその情報を知った」



男は急に真剣な顔になりピリピリとした殺気を向けてきた。



…物足りない殺気だぜ、まるでイジメられっ子がイジメっ子に向けてるみたいだな。



俺はやれやれ…とため息を吐いて殺気を受け流す。



「立場が理解できてないようだから言っておくが…それが助けてもらった奴の態度か?」


「っ…!?」


「お前は死の半歩手前…つまりは瀕死の重体だった、それを短時間で完治させてやった俺に殺気を向けるのか?」



恩を仇で返すとはまさにこの事だな、はあ…今度こそ死ぬか?



「…く…!?」



男はバッとその場から離れるように後ろに飛んで俺との距離を取る。



殺気も怒気も、何の気も込めずに言った言葉がどうやら男の警戒心を高めたらしい。



「そろそろ時間か…」


「待て!君は…お前は何者なんだ!」


「俺は俺だ、それ以上でも以下でも…何者でもない」



立ち上がって背筋を伸ばし首を左右に傾けボキボキ骨を鳴らす。



「最後に一つだけ聞きたい!」


「は?調子に乗んなよ、恩を仇で返すお前にこれ以上世話を焼く義理は無い」



俺はバッグを背負って洞窟の奥に向かって歩き出した。



「な…!頼む!待っ…!」



男が走って追いかけて来たため、俺は無名を抜いて男の首に当てた。



「これが最後の忠告だ、俺の目の前から消えろ」


「…!ど、どうすれば…」


「は?」



男の言葉を聞き眉間にシワを寄せる。



「どうすれば、俺の質問に答えてくれる…?」


「自分の立場を理解して、行動に移しな」


「………さ、先ほどの無礼を大変申し訳ないと思っている、どうか…許してほしい」



男は少し考えてすぐに土下座して地面に額を擦り付けた。



「もう調子に乗らねえな?」


「…っ!…は、はい…自分の…立場を…わきまえ、ます…!」



怒りなのか、屈辱なのか…声を震わしながら返事をする。



「ったく、最初からそうしとけよ…その態度に免じて特別にあと15分だ」



無名を鞘に納めて冷たい目で男を見下す。



おそらく今の行動でこの男のプライドはかなりズタズタだろう。



プライドを捨ててまで聞きたい事とは何なのか…ちょっと気になるな。



「誰から、俺が魔界に来る事を聞いた?…のですか」


「とってつけたような敬語は要らん、あと頭下げながらじゃなくてもいいぞ」



男は土下座し頭を下げたまま体を震わして質問した。



地面に着いた手に力を入れ過ぎて血が少し流れている。



「聞いたんじゃない、偶然知ったんだ」


「は?」


「お前の後任、後釜で円卓の騎士の奴と話してる時にな」


「後釜…?まさか!ジュークか!?」



いや知らんけど。



「名前は知らん」


「俺の後任で円卓の騎士…間違いない、ジュークだ」


「話を続けるぞ…そいつとの話し中に俺が冗談混じりで『魔界にでも行くのか?』と笑いながら聞いたら、物凄い勢いで口を手で塞ごうとしてきた」


「…そういう事か、あいつらしい行動ではあるが…」



男は納得したように立ち上がり、顎に手を当てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る