20

「なるほど…君の正体がだんだん掴めかけてきたよ」


「…命が惜しけりゃ、俺の事はあの世界であまり喋らない事だ」


「それは恐いな」


「冗談だと思うか?」



ニヤリと笑う男に対して俺は剣に手をかける。



「さあ?だが君の実力は未だに計り知れない…敵には回したくないタイプの人間だ」


「それは賢明な判断だ」


「もう一つ…質問しても?」


「答えられる範囲なら」



もうそろそろ時間も差し迫ってきてるし…これが最後の質問になるだろう。



「この洞窟ではどういった物が採れるんだ?」


「色々な物が採れる」



ザックリとした質問にはザックリとしか返せないんですけど。



「例えば…電気を発電する鉱石や、土に埋めると溶けて養分になる鉱石などは?」


「ココには無い」


「そうか…ではどこでなら採れるか分かるか?」


「場所は分かるが……途中で間違いなく死ぬぞ?」



ココからその洞窟や地底遺跡、鉱山までは距離がある。



この場所と違ってソコに生きて辿り着く事は無理だ。



なぜなら、ココでまだ魔物の強さが中の下ぐらいだから。



どの場所に行くにしても…相当運が良くても中の上クラスとの遭遇は避けられない。



こいつがそいつらに遭遇したら生き延びる事は不可能。



99.8%の確率で死ぬ。



中の下クラスとの魔物と戦っても死ぬ半歩手前だったんだぜ?



魔界の平均クラスと戦っても勝ち目ねぇよ。



「行ってみないと分からないじゃないか」


「…あんたがココに来るまでに戦ってた魔物のレベルは、強くて平均レベルだ」


「なに!?あれで…!」


「ルートによっては中の上や上の中レベルの魔物と遭遇するかもしれない」



どれだけ分が悪いか分かったか?六面サイコロで9を出せないのと一緒だ。



無理なもんは無理、諦めな。



男は俺の言葉を聞いて拳を握って俯いた。



「だが…あんたはかなりの強運の持ち主だ、俺がたった今気まぐれを起こしたんだからな」


「…?」



男は顔を上げて不思議そうに俺を見る。



「今帰るんなら、その場所まで送ってやってもいいぜ」


「本当か!?」


「ただし、今すぐだ…俺の気は一瞬で変わるからな」


「くっ…!どうする…?どうしたら…!」



頭を抱えながら必死になって考えていた。



成果を追い求めての死か?成果を諦めての生か?



それとも…かなりの強運でその両方を手にいれるか。



「悪いがコッチにも時間が無い、シンキングタイムは5秒だ」



この機会を逃せば、二度と俺と会う事もあるまい。



「…お願い、する」



俺の言葉がダメ押しとなったのか、男は決意したような顔でそう言った。



「帰りのゲートが開く場所は何処だ?」


「この紙に書いてあるそうだ」



男からカードサイズの紙を受け取って場所を確認する。



入口から南南西に100kmほど離れた場所か…



「よし、行くぞ」


「!場所が分かるのか?」


「まあな…走れば日が暮れる前には着くだろう」



踵を返して洞窟の入り口に向かって歩く。



「急ぐぞ」


「分かった」


「俺から離れずに付いてこいよ」



俺は言うや否や目的の場所に向かって走り出した。



「ぐぎゃあ!!」


「ブフオォ!!」


「!なんだアレは!」


「気にするな!死にたくないなら全力で走れ!」



横から後ろから追いかけてくる魔物共を無視して走りつづける。



「はぁ…はぁ…」


「…もう少しだ」


「くっ…!まだイケ、る…!」



男は息を切らしながらも必死になって俺に付いてきた。



そして走りつづける事3時間。



ようやく目的の場所に着いた。



「はあ…!はあ…!…やっと、着いたか…!」



男は膝に手を着いて息を整えようとしている。



ココは……ったく、本当に運が良い奴だな。



確かこの近くにあの葉っぱが採れる木があったハズだ。



「ゲートが開くまでちょっとは時間がかかるはずだ…ここで待ってろ」


「はあ…!はっ…!わ、かった…」



俺は男から離れてあの葉っぱが生えてる木の所へ向かう。



ん~…土産としては3枚あれば十分か。



念のため、一枚を半分に斬って4枚にしといてやろう。



「グルルル…!」


「お、ベオウルフじゃん」



葉っぱを抱えて男の所へ戻ってる最中に二本足で歩く狼に似た魔物と遭遇した。



…ありゃ、こいつらって確か集団性があったよな…?



やべえ!もしかしたら…!



俺はダッシュで男の所へと戻る。



「グルル!」


「ヴルル…!」


「グアア!!」


「く…!なんて数だ!」



目的の場所に戻ると男がベオウルフの群れに囲まれていた。

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