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「そうか…じゃあ単刀直入に話すぞ?」



エルーは安心したように息を吐いて聞いてくる。



俺は無言で次の言葉を待つ。



「俺を迎えに来てほしいんだが」


「おりゃあアッシーか、男なら自力で帰って来んかい」


「今からだと明日までに間に合いそうにないんだよ、頼む!」



エルーは電話越しに必死に頼み込むような声を出した。



「えー、めんどくさいんだよ」


「マジで頼む!ナターシャを悲しませたくないんだ!」



チッ…そこで女の子の名前を出されちゃあな…



「仕方ねぇ…今から絶対に誰にも見つからない場所に移動しろ」


「!っしゃあ!借りは1な」


「貸し2だろ」


「ぐ…!…ぼったくりめ」



最後の呟きを無視して電話を切る。



「結局迎えに行くの?」


「まあな…と言うわけでトイレ行ってくるわ」



マキナはまだ通話中らしく、俺に背中を向けていた。



とりあえず近くの男子トイレの個室に入り、ポーチからスタングレネードと閃光玉を取り出す。



あ、今更だけど…俺が使ってるスタングレネードとかチャフスモークグレネードって普通の大きさの1/10ぐらいしかないよ?



分かりやすく言えばド○ゴンボールのホイ○イカプセルに近いかな。



これも技術の進歩だよねぇ…なんていうか…ピンも小さいし。



ポーチから収納式小型ナイフを取り出して指を切り、血を舐める。



そしてスタンのピンを抜いて床に置き、タイミングを見計らってエルーの所に影移動させた。



あっちがどんな状況か分からないし…プレハブを移動させた時みたいに、移動先にも予防線を張っとかないとな。



続いて閃光玉を床に打ち付けて研究所のエルーの部屋に影移動させる。



そんでスタンの効果が消える前にエルーを研究所の部屋に影移動させた。



スタンのピンを抜いて約3秒の早業だ。



…だがコレはとにかく疲れる…やっべ、フルマラソンを全力疾走した後みたいだぜ。



遠くの奴を遠くに移動させるってのがなぁ…



俺が直に影に触れてる時の数倍は疲れるんだよ。



遠隔操作だから仕方ないと言えば仕方ないが。



まあ、俺が直接行って影移動させた方が遥かに燃費が良いんだけども。



時間もそんなかからないで同じぐらいだし。



だけど、問題ができる。



誰かに見られたら厄介な事になる、と言う問題が。



スタングレネードと閃光玉は、濃いサングラスを掛けてれば意味がほぼ無くなってしまう。



スタンの方は音も出るから無効ってわけではないんだけど、見られるからなぁ…



その点、今の方法なら燃費は悪いが…もし見られてたとしてもエルーが瞬間移動したようにしか思わないだろ?



俺の能力である事には99.9%気づかれない。



それに…技は磨かないと錆びるからね、定期的に使っとかないと。



いざという時に使えなくなってたら困る。



「だる~」



フラフラとした足取りで校舎を出て正門の方へ向かった。



リザリーとマキナがさっきの場所にいなかったから多分、そこにいるだろうという予想。



「あら、遅かったわね」


「そうか?こんなもんだろ」


「フラフラだけど大丈夫?」


「少し休めば…」



流石の俺もフルマラソンを全力疾走並の体力消耗はキくぜ。



体力の1/10ほどが一気に削られたからな。



「あれ?エルーは?」


「ああ、研究所の部屋に送った」


「ふーん、まあいいや…そろそろ馬車来るかな?」



待つこと5分、マキナが呼んだのか馬車が来た。



「そういや、電話の内容はなんだったんだ?」



馬車に乗り込んで目の前のマキナに聞いてみる。



「友好国の街が一つ魔物…程人君風に言うなら魔獣?に攻められてるんだって」


「ははぁ…それでエルーが派遣されたわけね」



小隊か中隊あたりの隊長として街の奪還を頼まれたのか。

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