28

「疲れた?風呂入る?」


「う、うむ…」



俺の矢継ぎ早の質問に姫様はちょっと気圧されがちになった。



「じゃあ風呂入ってる間に紅茶淹れとくよ、あ、洗濯物は脱衣所のカゴに入れておいて」


「分かった」



言葉使いを除けばまるで召使いのような発言である。



いや、小姑も少し入ってるかも…



俺もこのあと尋問があるからさっさとやるべき事は済ませないとな。



えーと…


姫様の着替えを用意して

紅茶淹れて

姫様を寝かしつけて

洗濯して

夕飯食べて

パンやクッキーの生地作って

軽く運動して

風呂入って

尋問して…



やる事いっぱい過ぎて今日は寝る暇ねえな。



あと2時間もしたら日付が変わるってのに。



「姫様、着替えとバスタオルはこのカゴに入れておくからさ!」



着替えを脱衣所に置いて返事を聞かずに台所に向かう。



ちょうど紅茶を淹れ終わった時に姫様が風呂から上がる。



俺は紅茶とドライヤーを手にソファに座ってる王女の所へ移動した。



「うむ」



テーブルに紅茶を置いてドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かし始めると、いかにも当然!みたいに王女が頷く。



こいつ相当甘やかされて育ってるなぁ…羨ましい。



俺はあくまで護衛であって、召使いじゃないってのに。



髪を乾かし終わりドライヤーを片付けて姫様を寝室へと移動させる。



「じゃあお休み」


「待て、子守歌はどうした」



ええー…またアレやるの?面倒くせぇー。



早くしろ、と姫様が急かしてくるため仕方なく声帯をイジって子守歌を歌う。



寝たのを確認してやるべき事に取り掛かった。



「はあ…やっと尋問できるぜ」



俺は既に日付は変わった時間帯に刺客を転がした部屋に行く。



男はとっくに目は覚めてたのか部屋の中をゴロゴロと転がり回っている。



尋問のシーンはちょっとエグロいからカットで。



風呂場であへ、あへ言って転がってる男を放置して俺は無線機を取り出しエルーに連絡を取った。



男から入手した情報を全て伝え、ユニオン側のテロ支援者を絞り込んでもらうためだ。



「…分かった、必要な情報だけは上の方に伝えておく」


「もう遅いと思うけど…なるべく早く捕らえて」


「ふぁ…おう、夜明けも前からご苦労な事だな、お前は今王女の護衛じゃなかったのか?」


「それが色々あってよ…」



それから小一時間ほどエルーと雑談してから無線を切る。



外を見るともう太陽は上り始め、空は明るく白んでいた。



もうこんな時間か…朝食でも作って軽く運動でもしておこうかな?



俺は男を風呂場から引きずり部屋の前に転がす。



エルーが場所を伝えたから、そろそろ治安部隊だか警察が引き取りにくるだろう。



こんな状態だし…部屋の前に放置してもいいか。



姫様の泊まっている部屋に戻り魔札を回収して朝食の準備をする。



準備を終えて軽く運動してると終わりがたーで姫様が起きてきた。



「…朝っぱらから何をしておる」


「ん?なにって軽い運動だけど?」


「軽い運動…?その動きでか?」


「そうだけど?」



姫様は信じられん、と目を見開いて驚く。



「いやいや、そんな驚くほどのもんじゃないよ?ほぼ毎日続けてるだけで」


「ならば運動メニューの内容はどんな感じだ?」


「え?片手の腕立てが500回の5分×2で合わせて10分、片足でのスクワットが500回の5分×2で合わせて10分、腹筋が1000回の10分、合計30分だけど?」


「軽く…?貴様の強さの秘密が分かったような気がする」



?よく分からんけど見直されてるのか?



別にこれぐらいならリザリーもマキナもエルーも汗一つかかずにできるんじゃないかな?



あ、リザリーはもう少しやってるって言ってたな。



朝の軽い運動を終えて朝食の仕上げをする。



「今日の朝はスコーンにジャムorチーズと、ウインナー&ハムサラダー」



テーブルの上に皿を置いていき紅茶を淹れた。



「…あー、イタダキマス?」



姫様はぎこちないながらも合掌?的な動作をして食べ始める。



…人ってこうやって一歩づつ成長していくんだな。



しみじみと感慨に浸りつつ、自分の分も合掌して食べる。



「さてさて、今日の予定は…商業視察?」


「うむ、昼間からだそうだ」



俺は食器や調理器具を片付けながら、観光できねぇ…とボヤく。



ため息を吐きつつも片付けを済ませて姫様に着替えを渡して外に出た。



昼間っから視察ねぇ。



俺の力量を察知したあの忍者が昨日の今日で襲ってくるとは思えんし…まあ大丈夫でしょ。



着替え終わった姫様と共にホテルのロビーで車を呼んでから視察に向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る