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「…っ……ぷふっ…!…む、村人……B…ぃ…!!」


「おいコラ、笑いを堪えてんじゃねえぞ」


「あはははは!む、村人B!AじゃなくてB!あはははは!」


「腹かかえて笑えって意味じゃねえよ」



王女様と使者?の人が不思議な顔をする中、リザリーの笑いはしばらく止まらなかった。



「あー…すみません、王女様、久しぶりにツボにハマったものですから…」



指で涙を拭いながら王女様に謝る。



「いえ…何が面白かったのか理解に苦しみますけど、気にしませんよ」



王女は気にした様子を微塵も見せずにニコッと笑う。



「君達失礼だな、今まで色んな国に使者として出向いてきたが…ここまで無礼な者は見たことが無い」



うっぜぇ……んだこいつ?礼儀が無いとかどうでもよくね?



力が下の奴に礼儀もクソもないだろ。



「大変失礼しました、何分使者を迎える役割を担うのが久しぶりなもので」



俺が少しイラっとするとリザリーが申し訳なさそうな声と顔で頭を下げる。



王女は使者を少し諌め、リザリーに頭を上げるように促した。



「それで…護衛の件なのですが、私はこう見えてもそれなりに腕が立ちますので…大丈夫です」


「恐れながら王女様、王女様を狙うテロリストが潜伏している可能性があります」


「…ですが…」



王女様は俺をチラッと見るとため息を吐いた。



「あんな足手まといを抱えていてはとても…テロリストを相手に庇う余裕なんてありませんわ」


「では…弾除けとしてはどうでしょう?」


「弾除け…ですか?」


「はい、体を張った盾ぐらいにはなると思います、それに危なくなったらこの村人Bを囮にしてお逃げ下さい」



あい、こいつ…村人Bと言う表現が気に入りやがったな。



ちょっと笑いを堪えてるし。



「そこまで言うのなら…仕方ないですね」


「ありがとうございます」



王女が折れたように再度ため息を吐くと、リザリーが軽く頭を下げた。



このやりとりをやる気無ーく見てるんだけどさ…



俺にプライドとか無くて本当に良かったと思う、普通ならこんな言い方、扱いされたらヤバイだろ。



「ん?決まった?」



話を聞いてない振りをしてリザリーに質問する。



「ええ、一応ね…それとごめんなさい」


「気にすんな」



流石のリザリーも罪悪感に満ちた顔をしていた。



まあ王女様の反応は予想外だったからしゃーない。



「んじゃあタイムテーブルみたいのある?」


「コレだ」


「ども」



使者?からスケジュール表?的な紙束を貰ってペラペラと内容を確認する。



「コレ…マジで?」


「?何かおかしいの?……うわ」



リザリーもスケジュール表を覗き込んで嫌そうな声を上げた。



~スケジュール表の内容~



一日目の予定、ユニオン共和国来訪。


二日目の予定、調印式に出席。


三日目の予定…



※A4一枚の紙に一行だけしか書かれていない。



ザックリし過ぎだろ、なんだこれ?



子供のおつかいより酷いじゃねえか。



「私達の国はなによりも自主性を重んじるのです」



使者が平気で嘘ついていいのか?明らかにおかしいだろ。



「では、私は別の役目がありますので」


「ちょっと待て、調印式とかは?」



俺は手を上げて普通に車に乗ろうとする使者の襟首を掴む。



「渡した紙に書いてある事だけお姫様とご一緒しますが、それ以外は別行動です」



眉間にシワを寄せて鬱陶しそうに俺の手を払った。



…このクソ野郎…殺してやろうか…?



「わかりました、姫の護衛はお任せ下さい」



リザリーが俺の前に手を出し、制するようにすると使者の人に頭を下げる。



使者はそれを一瞥すると車を出せ、と運転手に告げてドアを閉めた。



「…別の車を手配してくるわ」


「はぁ…」



リザリーが港町のどこかへ歩いて行くのを見送りつつため息を吐く。



「おい、村人B」


「はあ?」


「…お前は態度がなってないな、なんだその返事の仕方は」



なんだぁ?リザリーと使者がいなくなったら急に偉そうにしやがって。



「俺は姫の騎士でも無ければ召使いでもねぇんだよ、言葉使いや態度ぐらい大目にみろや」


「貴様…それは自分の立場を理解した上での発言か?」


「はあ…立場ねぇ、一介の護衛に立場もクソも無いと思われますが?」


「車の手配ができたわ」



王女が圧力をかけようとしてるらしいが、生憎俺には通じない。



だって人間の立場じゃないもん。



魔物の立場、しかも敵だぜ?



どう考えても圧力かける相手を間違えてるぜ。



「…少しお聞きしたいのですが、本当にこの村人Bが私の護衛なのですか?」


「ええ、態度や言葉使いはさて置き…弾除けや囮に使えて便利ですよ?」


「…便利、ですか」


「お、車が来た」



女王が何か言いたげな顔をするとリザリーが手配した車が目の前で止まった。



「姫様、お手を」


「ありがとうございます」



リザリーはドアを開けて女王に手を差し出して車に乗せる。



…お前の方が俺よりも向いてたと思うんだけどなぁ。

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