12
「あくまで王女の護衛が最優先、という事を覚えておいて」
「へいへい…危なくなったら上の方は見捨てますよ」
そんな最悪な事態には発展しないと思うけどな。
「じゃあ資料を持ってくるわ」
「話は終わった?」
リザリーが応接間から出て行くと同時にマキナが入ってきた。
「話は、な」
「コレ、貰ったんだけど…淹れてくれない?」
スーパーで貰いそうな白い手提げ袋を渡される。
中身を見ると多分ダージリン?と書かれた袋が入っていた。
「…自分で淹れろよ」
「ちょっとレポートの方が手を離せなくて…お願い!」
「仕方ねぇな」
女の子に頭を下げて頼まれたら聞くしかない。
マキナと一緒にキッチン的な所に移動して袋を開けた。
「コレ、最高級茶葉じゃねぇか」
どうせ安物だろうし…と思っていた俺の安易な考えをぶち砕く。
「100g八万って言ってたかなー?」
ティーカップを用意しながら思い出したように呟いた。
「マジか…結構本気で淹れないといけないじゃん」
こう見えても俺は前までは紅茶を淹れるプロだったんだよね。
当然モテると言う不純な動機の下にひたすら頑張った。
超一流のプロに指導を頼んだり、リザリーやマキナやエルーに試飲を頼んだり…
半年もする頃には超一流に認められるぐらいの技術を身につけた。
魔王城とか修行してた時も紅茶を淹れてたから腕は落ちてないと思う。
…多分。
「ってかカップ多いよ」
「いやー、いっぱい貰ったから研究員のみんなにも飲んでもらおうかなー…って」
「何人いんだよ」
「私達含めて125人かな?」
「隣の研究所の研究員の分まで…?」
マジかよ…通りで茶葉が多いと思ったら…こんな事になるんなら断ればよかった。
仕方なくコンロを5つ使ってお湯を沸かし、適温になるまで待つ。
…ココからが勝負だな、如何に迅速かつ丁寧に、上手く淹れられるか…
…今だー!
一旦煮出し、沸騰させた紅茶をあらかじめ温めておいたポットの中に入れる。
当然ポットの中には茶葉が入ってるよ?
上手くカスだけを鍋に残して次々と温めポットに入れていく。
蒸らす時間が大事なんだ…
………よし、今だな。
ポットからティーカップにちょっと高い所から注いでいく。
「おおっ!」
なんかこうする事によってムラなく混ざるんだとか。
素早く丁寧に次々と注いでいき、125名分の紅茶を淹れる作業は終了。
「じゃ、持っていくね」
「おう」
ふっふっふ…これぞダブル抽出だ。
これにより紅茶の風味と旨味が増すんだとか…
まだまだ腕は衰えてないな、良かった良かった。
片付けを済ませて応接間に戻るとリザリーが足を組みながら俺の淹れた紅茶を飲んでいる。
「どうだ?」
「うん、とても美味しいわ」
よっしゃ、いつもは全然褒めないこいつが褒めるって事は大丈夫だろ。
どれ、俺も一杯…………うーん、全っ然味の違いが分かんねぇ。
俺みたいな庶民に味の違いなんて分かるけぇ。
スーパーで売ってる安い紅茶と同じような味、としか思えん。
「…なあ、そこらのスーパーで売ってるのと変わらなくね?」
「全っ然、かなり違うわ」
「淹れておいてなんだが…お前ら催眠術でもかけられてんじゃねえか?」
俺がおかしいのかねぇ?高級も安物もたいして変わらんぜ。
「あんたの味覚がおかしいのよ、幸せな味覚ね」
「まあグルメよりは雑食のがマシだけど」
「…そこらの安物の茶葉でも私やあんたが淹れればレベルが段違いに上がるのよ?」
そりゃ俺らは紅茶の腕は良いけど…そこまで言う程か?
「とりあえず、コレが資料よ」
バサッと十数枚の紙束をテーブルに投げる。
「後半はテロ組織についての事が書いてあるわ」
ふむふむ…ロズ王女ね…可愛い顔だ、歳は16…顔に合わず剣の腕は一流…魔力持ちで風属性…性格は…
「明後日、王女を迎えに行くから」
「オッケー、資料は貰うぜ?読んだら燃やすけど」
ってかこいつ、腹立つぐらいに紅茶が似合ってるな。
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