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『まあ創造主と話をするには邪魔だしね……じゃあ六節いきましょう』


「六節…?私は願っても無いわ、けど…どういう風の吹き回しなの?」


『早く終わらせたいのよ、それに…創造主が見てるなら良いトコ見せたいじゃない☆』


「…そう、じゃあ行くわよ」



もう目前まで差し掛かっている魔獣の大群を気にも留めずにリザリーは剣を空に向かって掲げ、呪文を唱え始める。



それと重なるようにニーナも呪文を唱え始めた。



「…二重詠唱?」


「六節って確か…」


「ああ、広範囲の殲滅型魔術だ」



広範囲の殲滅型魔術…?なんだそりゃ、始めて聞いたけど。



俺が首を捻ってると二人(一人と一体?)の呪文が止む。



「『エルン・ライツ・ギュリア・ザーグ!』」



リザリーが魔術名を唱え剣を横薙ぎに振ると、魔獣の大群のど真ん中に空からすごい速さでナニカが落ちてくる。



何かを確認する間もなく落ちた瞬間その場所で凄まじい大爆発が起きた。



「きゃっ…!」


「うおっ…!」


「ぐっ…!」



思いもよらない風圧に体が揺らぐが飛ばされないようになんとか踏ん張る。



「やべ…!」



その風圧で飛んでくる岩などをマキナやリザリーに当たる前に剣で斬り裂く。



学生達に向かって飛んで行ったのはエルーが対処してくれた。



魔獣の大群はもうホント見る影も無い。



…ってか雪原の真ん中がクレーターのようになって焦土のごとく煙が出てるんだけど。



目測で半径3kmって所か…半端ない威力だな、おい。



『天空より降りし災い』…か、まさにこの威力にふさわしい魔術名だ。



「いや、なんでお前が旧約聖書とか知ってんだよ」


「あら、あの魔術名の意味に気づいたの?」


『流石は我が創造主ね!博識だわ!』


「なんの話?」



やっと風も落ち着いてきてマキナとエルーが小走りで近づいてくる。



学生達は雪原のクレーターを見て呆然としていた。



まあ一万以上もいた魔獣の大群が、一撃で消し去られる瞬間を目の前で見たらそんな反応が普通だよね。



「六節って旧約聖書の事だったんかい」


「旧約聖書?ナニソレ」


「その昔、神を信仰する人達の中で最も偉いとされた人達が書いたと言われる書物をまとめた本だよ」


「あ、俺それなら読んだ事あるな」



エルーがふと思い出したように言った。



「え、嘘…私読んだ事無い…」



話についていけないようでマキナは涙目になっている。



「ま、宗教や歴史に興味無いなら読んでなくて当然だわ」


「歴史に関する本だもんな…俺はなんとなく読んだだけ、だったし」


「俺はテイトが読んでたから、かな?」


「私の場合も…そうね」



ちょっと考えるようにしてエルーに賛同した。



「うー…!私にも勧めてくれれば良かったのに…!」



…なぜか俺がマキナに涙目で睨まれるハメに。



「で、六節ってどんな内容だったっけ?俺も内容はうろ覚えでさ」



エルーがちょっと恥ずかしそうに頭を掻く。



「あ、私も気になる!」



ちょうどいい、と言わんばかりに乗ってきた。



「六節って言っても結構あるぞ?…えーっと、ほとんどは天罰の話だったかな」


『今回のは第六節の十二章を参考した技よ!』



頼りない記憶力を引き出そうと頭を捻ってると、いつの間にかニーナが鞘ごと俺の腰に差さっていた。



リザリーを見るとお手上げ…みたいに両手を上げて肩を竦めている。



『ああ…!創造主…!久しぶりだわぁ…!!マイスイートクリエイタぁー…!』



なんか悦に浸っているニーナは一旦置いといて。



「詳細は色々省くとしてザックリ言うと『天空より降りし災い』ってのは人間の愚かさに見兼ねた神様が町に雷を落とす、っつー話だ」


「補足すると…その雷が落ちた町は爆発を起こしたそうなの」


「え?じゃあ見た人も死んだんじゃないの?」


「いや…著者が町を嫌になって出た後に、雷が落ちて爆発を起こしたらしい」



補足のさらにまた補足…俺の説明がザックリし過ぎたのか?



「へぇー!なんか面白そうな本だね」


「今もあったっけ?今は新約しか出回ってないんじゃね?」


「そうね…旧約は私達が産まれる大分前に絶版になってるらしいし」


「養成学校の図書館ならまだあるんじゃないか?」



だんだんとうな垂れていくマキナに救いの糸!と言わんばかりの発言。

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