16
「お疲れ様です!」
「ああ…うん」
ドアを開けた途端に元気良く労いの言葉を言われた。
元気が良すぎて俺はそのテンションについていけない。
…俺も年とったかなー?最近の若い者にはついていけん。
「早く換金しましょう!」
俺はクレインにグイグイと腕を引っ張られてのそのそと歩き出す。
「だんな…申し訳ありませんでした!」
換金所に着くと店員が俺の顔を見るなりいきなり土下座してきた。
………ああ、あの弁当の件か。
「じ、常連の方に脅されて仕方なく…」
「?」
「別になんともないけど」
「は?」
俺の言葉を聞いて店員が間抜けな声を出す。
「弁当の魚と…なんだっけ…まあいいや、に仕込まれてたのだろ?食べても今の所異常はない」
「え!?あの弁当に何か入ってたんですか!?どうしよう…全部食べちゃった…」
話を聞いてた横のクレインが泣きそうな顔になった。
「ヤバそうなのは俺が食ったから大丈夫だと思うけど」
「捨てないで食べたんですか!?…因みに何が入ってたんです?」
「…痺れ薬と筋肉弛緩剤でさぁ…」
立ち上がると苦虫を噛み潰したような表情で言う。
筋肉弛緩剤…痺れ薬はまあいいとして厄介なモン仕込んでくれたな。
まあ少量だったから異常は無かったが、大量に入ってたらと思うと…代表戦は多少苦戦したかも。
「本当に申し訳ありませんでした!」
再度頭を下げて地面に額を擦り付けた。
人が人ならどんな目に会うか分からないから当然と言えば当然か。
めんどくさいから俺は何もしないけど。
「あ、あの…」
頭を地面に付けてる男を見てアワアワとするクレイン。
そろそろ助け舟でも出してやるかな。
「コレを換金したら水に流してもいいぞ」
クレインが持ってるカバンを取って店員の前に置いた。
「本当ですか!?喜んでさせていただきます!」
うーん、言葉がおかしいような気がするのは気のせいか?
「…一億5000万とんで5万6000円でさぁ…現金は難しいので小切手で勘弁してくだせぇ」
レートは何倍だからそんな額いくの?俺ってそんなに大穴だったの?
喜んでいいのか微妙~…
「あの…銀行は何処です?」
「あちらの角を左に曲がって直ぐ見えまさぁ」
「へぇ、ありがとう」
「いえいえ、もうあんな真似はこりごりだ…殺されても文句は言えないですから」
「そうなんですか?この国も物騒ですね…」
まあ戦いの前に一服盛るなんて普通なら怒って当然だしな。
とりあえず銀行に行って現金に変えるか。
クレインがまたしても早く早くと腕を引っ張る。
なんでそんなに急いでんの?俺には理解できないが、別にいいか。
「いらっしゃいませー」
教えてもらった銀行に行くとコロシアム開催期間中だからかガラガラだった。
そのおかげで待たなくても直ぐに順番が来たので助かったけど。
「コレを現金に出来ますか?」
「はい……!?し、少々お待ちください」
銀行員の人は俺が渡した小切手を二度見して奥の方へと引っ込む。
そして待つこと10分。
店長見たいな人を引き連れてさっきの人が戻ってきた。
「こちらが現金1億5千6万円でございます」
「あの…大丈夫ですか?もし必要なら民間の警備会社に警備員をお願いしますが…」
「ああ、結構です。お気遣いありがとう」
ぶっちゃけ警備員なんていらねぇよ、カツアゲとか強盗とか一般人のチンピラ程度なら何百人来ようが余裕だし。
「そ、そうですか。路地裏には危ない輩が多いので決して近づかないでくださいね」
「そうなんですか?怖いですね…わかりました、ありがとうございます」
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちはしております」
クレインが持ってるカバンに金を詰め込んで銀行を出た。
案の定、と言うべきか何度も不良やチンピラに絡まれ路地裏に連れ込まれてしまった。
当然全員返り討ちにしてやったんだが…クレインが途中で止めた所為で半殺し程度にしかなっていない。
「もう…やりすぎですよ」
「普通は殺られる前に殺るんだよ」
「何も殺さなくても!」
「殺してねぇ」
残念ながらまだ生きてるし、まあ腕とか脚は全員きっちり折らせてもらったわ。
ベッキベキに。
でも多分全治半年ぐらいで済んだと思う。
喧嘩売る相手は選ばないとね。
「全く…」
なぜか歩きながら俺の横でクレインはむくれている。
結局宿に着くまでむくれっぱなしだった。
うーん…この年頃の女の子の考えてる事は分からんなぁ…
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