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「ぐぁ…!」



奴は呻いて口から剣を落とすが体を捻り左脚の踵で更に俺の頭を狙って蹴る。



なんて執念だ…いや、恐るべきはこの体の使い方、体術の方か。



剣を使うのにこんな動きが出来る奴がユニオン以外いるなんてな…世界は広いぜ。



だが残念ながらこの程度の強さはユニオンの軍人なら普通なんだ。



とっさにガードして踵を掴み捻って奴の体を反転させてからまたしても左脚の太ももの一点を殴った。



ツボ押し拳五式麻痺急。



流石にもう分かったと思うけど、ツボ押し拳には全五式の技がある。



頭のツボを押す一式。

右腕のツボを押す二式。

左腕のツボを押す三式。

右脚のツボを押す四式。

左脚のツボを押す五式。



そして胴体のツボを押す禁忌の裏技六式。



魔界の整体師?的な奴に教えてもらった…教えてもらった?…うん、多分教えてもらった戦い方。



そういや人体のツボって全部で66箇所あるらしいぜ?



教えてくれた奴が言ってたから本当かどうかはわからないけど。



『な!な、なんと!!あの斬り切り済のアリカが!負!け!た!!?』



両手両足が麻痺してるんだから動けるわけねーべ?これはもう俺の勝ちでしょ。



「ぐ…!こんな…所で…!!」


「体…んー、違うか、胴体と頭以外動かないだろ?ギブする?」


「誰が!」


「憶測あと26分は動けねぇぜ?」



多分26分経ったら今の状態が嘘のように動けるようになる。



しかも疲労がとれてるから今より少しは動きが良くなるし。



まあその頃にはもう代表戦は終わってるけど。



俺はリングの上までアリカを引き摺って落ちてる二本の剣を拾う。



「ほい、返す」



その二本の剣を腰と背中の鞘に収めてやった。



俺ってちょー優しい、めっちゃ紳士だろ?これで可愛いファンとか増えねーかなー。



「ギブアップしないんなら両肘と両膝の皿割るよ?」


「…ギブアップする」



割られたら一生ベッドでの生活だな。と耳元で囁いたのが功を奏したのか、アリカは素直に負けを認めた。



『う、お、お、お、おー!!!超超超ド級の大番狂わせだぁ!!!あの優勝候補の一人!斬り切り済のアリカが!自ら負けを認めたぁ!!コレはお天道様でも見抜けなかった展開だぁぁ!!!』



観客席から大絶叫のブーイングが闘技場に響く。



そして色々な物が俺に…俺らに向かって投げられる。



俺は片手で片方の耳を塞ぎながらアリカを引き摺って控え室に向かう。



『道化師のピエロ!奴は一体何者なんだぁ!!我々はあらゆる手を尽くして奴を調べるぞー!!素性不明の未知数なジャイアントキリング!!次の奴の試合は最後の日!決勝のバトルロワイヤルだぁ!!他の代表者とどちらが強いのか今から楽しみでしょうがないぞぉぉ!!』



うるせぇ実況だな、ヒートアップし過ぎだろ。



「よウ、お疲レ」


「ん」



控え室に戻ると包帯を巻いた見覚えのある男が出迎えた。



ん~…こいつ誰だっけ?名前…名前…名前………思い出せんな。



「お前、ユニオン国の騎士ジゃねぇナ」


「あ?騎士?」


「だガお前のその強サ…王直属の近衛騎士並ダ」


「…俺を値踏みしてんのか?」



こいつ…さっき副隊長にやられたのはワザとだったのか?



品定めするような目で見やがって…ま、どうでもいいんだけど。



「頼みがあル、聞いてクれるカ?」

「パス」


「マ、待て」



俺は即答して横を通り過ぎると肩を掴まれた。



うーん…漫画みたいに良くある展開だなぁ、この次の展開も簡単に予想できるぜ。



最近魔獣が攻めてきている、これの退治を手伝ってくれ。とかかな?



街で耳にした噂話が本当ならそんな展開になるハズ。



「お前にも関係ノ無い話じゃナい…最近街に魔獣の群れガ攻めて来てイる、退治を手伝っテくれないカ?」



はい、キター!ドンピシャ、予想は大当たり!



やべぇ、予想が当たると超楽しいんですけど。



でも漫画とか小説とかではありがちな展開だぜー。



もしかして俺って誰かの手の上で踊らされてる?



…もしそうだとすると手を打っとかないといけんな。



「ごめん、魔獣とか怖いから無理…あの魔物でさえ膝とかガクブルだったんだぜ?」


「とてもソウは見えナかったゾ」


「強がってたんだよ、自分を誤魔化してな」



めんどくさい事は嫌だからとりあえず断っとくか。



「だガ…」


「俺や俺の関係者に危害を加えるなら対処するけど、自分から進んで関わるのはパス」


「そうカ、まア強制はできなイし、仕方ないナ…一応こレを渡しておク」



名前を忘れられた男が名刺的な物を俺に差し出す。



「名刺?」


「気が変わったリ興味が出たらソコに来イ、俺が泊まっテいる別荘の住所ダ」


「へいへい」


「今は街外れデせき止めているガ、街の中まで侵攻して来るのモ時間の問題ダ」



名前を忘れられた男は、じゃあナ。と後ろ手に振って控え室から出て行った。



魔獣ねぇ…まあこの国にはあと一週間も居ないしどうでもいいか。



アリカを控え室に放置してクレインのいる個室に向かう。



おっと!もう一つのポーチを返してもらうのを忘れていた。



途中で引き返しもう一度控え室に行って係員を探す。



「ああ、やっと見つけました。道化師のピエロ様、こちらは先ほどお預かりしたポーチです」



係員からポーチを返してもらい、今度こそ個室へ向かった。

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