11

「ガッ…!?」



『ああっと!一撃!?まさか……素手の一撃で倒したのかぁ!?』



痛っ!なんて硬い皮膚だよ…骨が折れたじゃねえか。



「お前、何者ダ…?」


「ただのピエロだよ」



俺が手を摩ってると副隊長が何事もなかったかのようにむくりと起き上がる。



『なんと!?倒れてはいない!どうやら一撃では倒せないようだ!どうする参加者達!』



「ガアァァ!!!」


「ナっ!?」


「おっ」



副隊長が吼えながらさっきよりも速い動きで突進してきた。



バンダナは副隊長が立ち上がった事にびっくりしたのか動きが遅れる。



俺は軽く避けたが、バンダナは少し引っ掛けたようだ。



「ぐっ…!」



副隊長はすぐさま方向転換してバンダナの方に攻撃を仕掛ける。



「ガぁ!?」



避けた態勢が悪かったのかバンダナはモロに攻撃を食らいリングの外に吹っ飛ばされた。



壁にぶつかったと思えばまた副隊長の突進を喰らい壁に減り込んだ。



「痛そっ」



バンダナが減り込んだ壁に向かって何回も腕を振り下ろす。



ついに見かねたのかゴツイ奴が後ろから副隊長を攻撃した。



軽く防御されて反撃されたけど。



ゴツイ奴に目がいってる間に俺はバンダナの所に行く。



「…ぁ…」


「おお、瀕死ではあるがまだ生きてるな」



瀕死…虫の息とでも言うべきか、とりあえず肩に担いで鉄門の所に移動した。



「今の内に少し開けてくれ」


「了解!急いで回収だ!救命班を準備させろ!」



鉄門が少し開くと闘技場内に入ってきた係員にバンダナを渡す。



「グアァ!!」



ちょうどタイミング良く副隊長が凄い速さで突進してきた。



「早く戻れ!閉めろ!急げ!」



はあ、やれやれ…話せるほど冷静になってるといいんだけど。



『これはまずいぞ!!下手したらあの化物が闘技場の外へ出てしまう!係員!避難誘導の準備をさせろ!!』



係員が闘技場の外に出て鉄門が閉まりかける頃にはもう副隊長は目の前に来ている。



これは大惨事になるパターンのやつだ。



鉄門が閉まりきる前に副隊長が体をねじ込み闘技場の外に出て、係員や観客…果ては一般人も巻き込みながら大暴れすると言う、大惨事。



まあ普通なら、だけど。



俺が鉄門の前に居る以上そんな事態は起こさせないぜ。



コロシアムの大会が中止、なんて事になったら槍も人魚も取り戻せないからな。



タイミングを見計らい副隊長が俺と接触する瞬間に動く。



軽くジャンプして副隊長の下顎を蹴り上げる。



「ガッ…!?」



体の動きが一瞬止まり、鉄門にそのままぶつかった。



…当然俺を巻き込んで。



その衝撃のおかげで鉄門は閉まった。



『おお!ピエロがスーパーファインプレーだぁ!!なんてやつだ!本当に彼は何者なのか!?』



「痛てて…重いんだよ、さっさと退け」



まだ脳にきた衝撃が収まらないのかフラフラしながら俺から離れる。



今ならいいかな?



「落ち着いたか?」


『貴様…!何者だ!?ただの人間ではないな!』



副隊長が唸りをあげながら俺から更に距離を取った。



「同僚?だよ、いや…一応上司にあたるのか?」


『なに…?』


「侵略第一部隊隊長だ、いくら俺が魔王城にあまり居なかったとは言え存在ぐらいは知ってるだろ?」


『貴様が…あの侵略第一部隊の隊長だと…!?』



『おおっと!!ピエロが何かを喋っているが全く聞き取れないぞぉ!魔物が警戒して距離を取っているという事は……まさか魔術!?』



残念。俺が喋ってるのは呪文じゃなくて魔物共の共通語だよ。



覚えるのと話せるようになるのに相当苦労したんだぜ?



こんなん出来れば人間の世界の言葉なんてなんでも簡単に覚えられるって。



そこまでの難易度って事。



「そうそう、お前を助けに来たわけではないが…これも何かの縁だ。助けてやるよ」



さて、どうやったら怪しまれずにこのモンスターを魔王城に持って帰れるかな?



『助ける…だと!?調子に乗るなよ!人間!』



副隊長がより一層激しく吼えた。



『我は人の力など借りん!ましてや負け犬の力など…!自力で戻ってみせるわ!』



ありゃま、プライドが高いこって。



人の親切心は素直に受け取っとけよな。



「じゃあ言うが…ここがどこで魔大陸、魔王城までどれだけ離れてるか、とか分かるのか?」


『知らぬ、距離などは離れていてもどうにでもなる』


「今の今まで捕らえられていたのに、どうやって逃げんの?このままじゃココで死ぬぞ」



俺ぐらい強い奴が現れない…とも限らないしな。



副隊長は唸りを上げるが言葉に詰まっていた。



「どうする?選択権は与えてやるぞ…ただし5秒な」



俺は指折りカウントダウンを始める。



5.4.3.2.1…0。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る