28

「その子…誰?」


「あの…」



リザリーの姪っ子が心配そうにエルーの方を見る。



「この子はナターシャ・クレイン、俺の妹でリザリーの姪っ子にあたる」


「私の姪…?」


「詳しくはテイトに聞け」



エルーは飲み物が入ってるカップを手に取ると話を俺に振った。



ああ、そう言えばナターシャって名前だったな。



すっかり忘れてた。



「程人、説明しなさい」


「その前にこの手を離して欲しい」



ガタッと椅子から立ち上がったと思えばテーブルの下に寝っころがってる俺の胸ぐらを掴んで持ち上げる。



「いいわ、その代わり納得のいく説明を求めるわ」


「納得のいく説明ねぇ…」


「とにかく話してみて?」



マキナが今の雰囲気に合わないようなニコニコした顔で促す。



「うーん…俺が知ってる限りでしか言えないよ?」


「勿体ぶらないで早く話して」


「ぐふっ」



リザリーは俺の腹に拳をめり込ましてきた。



全然痛くなかったとは言えリザリーはかなりイライラしてるようだ。



全く…話したら話したで八つ当たりしてくるくせに。



まあここは俺の広い心で受け止めてやるか。



「どこから話したもんかな…」




俺はとりあえず王子?だったっけ?と戦う所から話し始めた。



王子と戦って、死神が乱入してきて、攻撃をうけて、地下まで落とされて、地下には牢屋があって、そこにナターシャがいた。



話した内容を簡略化したらこんなもんだろ。



ナンパまがいの事をしたのは黙っておこう。



「ちょっと待って」


「ん?」



ちょうど話がひと段落した所でリザリーが言葉を挟んできた。



「牢屋には複数人いたのよね?」


「そだな」


「そこにこの子のお母さん…私の姉?はいなかったの?」


「それは…」


「いなかったです」



俺が答えようとすると、かぶせるようにナターシャが答える。



「母は…母は私を逃がすために国の外で身代わりに…」


「そう…」


「痛ててて!!」



リザリーは労わるようにナターシャを見ながら自然な動きで俺にコブラツイストをかけてきた。



痛みが走るまで全く気づかなかった…なんて恐ろしいやつだ。



しかも今の俺でも痛みを感じるって事は、普通の人なら完全に骨がバッキバキに折れてるって。



「ちょ…折れて…」


「あ」


「ぐ!?」



ボギボギ!!とヤバそうな音が響いてリザリーは手を離した。



手を離されて支えを失ったため地面に崩れ落ちる。



「ほら、話の続きは?」


「ちょっと…まて…」



かなりの力を入れて折りやがったなこいつ…



粉砕に近い折れ方したぞ今。



誰も言葉を発せず沈黙の時間が5分ほど流れる。



「あー…回復した、続きか…」



ナターシャとの出会いを話した所で骨をバキバキに折られるとは思わなかった。



「えーと…続きったってなぁ…」


「なによ」




階段を駆け上がってエルーと再会した。で終わりなんだよなぁ。



いや、もちろんその続きはちゃんとあるけどさ。



でもその先はエルーから聞いた方が良くないかな?



「早く言いなさい」


「階段ダッシュでエルーに再会。後はエルーに聞いて」



さっきエルーがしたみたいに話を振って俺は知らんぷりを決め込んだ。



「あ、手が滑ったわ」


「!?ぐおぉぉ…!」



熱湯が!熱湯が俺の顔面に!?




テーブルの下でゴロゴロしてると上から熱湯の入ったティーカップが落ちてきた。



俺の鼻の所に当たってティーカップは割れ、中身の熱湯が顔面にかかる。



あまりの熱さにテーブルの下でのたうちまわる俺。



「ほら、水よ」


「さんきゅ…うぅぅ!!?」


「あ、ごめん。海水だったわ」



しみるしみる!!しー!みー!るー!



俺はさっきよりも激しくのたうつ。



リザリーの八つ当たり的なアレは恐ろしすぎる。

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