29

「あ、あの、大丈夫ですか?」


「ああ、いーのよほっといても」


「はい、程人君タオル」


「ども」



マキナが差し出した濡れタオルで顔を拭く。



もしかしたらこれもなにか…?と思ったが普通の濡れたタオルだった。



「ふう…やっと治ったぜ」


「全く、デタラメな回復力ね」


「テイトが魔物になったからリザリーの八つ当たりも遠慮無いな…」



流石に不憫に思ったのかエルーがなんとも言えないような顔をする。



「200℃の熱湯を顔にかけられたら普通大火傷で死ぬわよ」


「殺す気か!」


「殺しても死なないんでしょ?」


「あの…話が逸れてるんですけど…」



俺が言い返そうとしたらナターシャがおずおずと話を元に戻そうとする。



「「「「いつもの事だ(よ)」」」」



四人の声が揃った。



俺らの話し合いは常に脱線する。



脱線した挙句に本題に戻らず、触れずに忘れて終わる…と言う事も珍しくない。



てかほとんどがそれ。



「仕方ない、話を戻すか」



俺は一応立ち上がってテーブルに手を着く。



確かナターシャの説明だったな。



出会いまでは話したから…次は両親の事か?



「実は…この子の父親はエルーの父親なんだ」


「「え?」」



マキナとリザリーの声が被った。



「で、母親がリザリーの姉…つまりエルーの父親の隠し子?」


「ふ、ふざけないで!」



バチーンと甲高い音を響かせリザリーは俺の頬を思いっきりぶっ叩く。



バチーンと同時にボキッと骨の折れるような音もした。



「リ、リザリー!落ち着いて!」



更に俺に殴りかかろうとするのをマキナが羽交い締めにして抑える。



…ったくとんだとばっちりを受けたもんだぜ。



いくら感情的になったからってねぇ?



俺はなんの関係も無いのに…酷い話だ。



「ごめんなさい、ちょっと取り乱したわ」


「アレでちょっと?」



もう回復してるから別にいいけどさ。



漫画みたいに頬に手形が付いてるってわけでもないし。



「…俺のクソ親父に説明を求めに行った」



エルーがここからは俺が話そう、と言って俺にお前は座れ的な仕草をした。



こいつ…リザリーに叩かれる事を知って俺に言わせやがったな。



まあ仕方ないか、エルーと言えどもあんなん喰らったら首の骨…絶対折れる。



つーかもう椅子が無いんだけど?床に…カーペットに座れと?



俺はまたしてもテーブルの下でゴロゴロする事にした。



「最初は知らんの一点張りだったが、ナターシャを見せた瞬間に顔色が変わった」




エルーは一旦言葉を切ってナターシャを見る。



どうやら気遣っているようだ。



「だい…丈夫です」


「『俺はそんな子など知らん!あの女が勝手に産んだ子など…!』とか口走りやがった」


「リザリーさん?」



リザリーはゴロゴロしてる俺の脚のふくらはぎ辺りを踏んだ。



「危うく実の父親ながら殺したくなったが我慢して更に問いただした…すると『お前があの女さえ連れて来なければ…!あの女の雰囲気が誘ってくるように見えたからつい魔が差したんだ』だと」


「痛い痛い痛い」



折れてる、折れてる。



頼むからイライラを我慢する為の捌け口として俺に攻撃しないでくれ。



「…私が姉を連れて行ったのは数えるぐらいのはず」


「二回目の時に子爵の地位を利用して迫ったらしい」



エルーの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。



「その後は?」


「四回目に家に来た時に身籠ってる事が分かり『何処の馬の骨とも知らん娘との間に出来た子供など…世間に発覚すると色々な危険が生まれる』と体面を気にして追い出したと聞いた」



ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきた。



父親がそんな最低な事をしていた事が恥ずかしいのか、ソレを今まで知らなかった事が悔しいのか…



いずれにしてもエルーが背負う類のものでは無いと思うけど。



てかリザリーのやつ…ふくらはぎから足を退かして踵を踏みつけてきやがった。



おい、足が床に減り込んだぞ。



「テイト」


「ん?」



床に減り込んだ足を引っこ抜くとリザリーが俺の後ろに立っている。



「ごめんなさい」


「は?…ぐふぅ!?」



後頭部を思いっきり蹴られて吹っ飛ばされ、壁に激突。



そこからリザリーは壁に激突した俺に殴る蹴るなどの暴行を加えてきた。



…俺はお前のサンドバッグじゃない。

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