20

「バカにしやがって!ぶっ殺してやらぁ!」


「止めなさい!」



少年は拳を握りしめ俺に向かって振り抜いた。



…リザリーの静止の声の所為で俺の反応が一瞬遅れる。



そのせいで本来やるはずだった行動ができなくなり、違う行動に移した。



顔面に向かってきてる拳を少し左に頭を傾けて避け、通過した二の腕を掴み、少年の左足を払って背負い投げの要領で後ろの壁に叩きつけた。



「がっ…!?」



補足すると少年が俺に向かって走ってきてる時に、俺も少しだけ前に進んでいたんだよね。



そうしないと投げ技なんて出来ないし。



でも…リザリーのせいで一瞬反応が遅れてしまったから叩きつけた威力も半減してると思う。



もしかしたらあれは俺に向けた言葉だったのかもしれない。



アレコレ考えながら俺は少年の二の腕を掴んだまま後ろに下がる。



すると少年はドサ…と背中から地面に落ちた。



…そのまま二の腕を離したら頭から落ちる危険性があったんだよね…だから下がったわけだけど。



俺ってかなり優しくね?



「ぐ…!」


「デロッサ…これで分かったでしょ?」



リザリーはため息を吐きながら少年の所に近づいていく。



「まだだ!今のはちょっと油断しただけだ!」


「はぁ…あなたね…」


「まあまあ、気の済むまでやらしてやれよ」


「…手加減しなさいよ?」


「一応は」



男の子はプライドを守るために闘わないといけない時があるんだよ。



…俺にそんな時は無いけれど。



プライドなんて思いのほか簡単に捨てられるものだ、と言うことに気づいてしまったからな。



自分の事だったらプライドを守るための闘いなんて馬鹿らしいと思うけど他人の事はどうでもいいし…



そんなこんな考えてると少年は立ち上がるや否や俺に殴りかかってくる。



俺はソレを避けてまた腕を掴み、さっきと同じく背負い投げの要領で壁にぶつけた。



「がっ!?」



流石に二回も同じ事をされると普通は実力差を悟ると言うものだ。



「ぐ…!なんの!」



…が、どうやらこいつは普通じゃないらしい。





















…そして少年と格闘?する事30分。



少年は地面に伏せって息を荒くしている。



対する俺は全く何もない。



少年が殴りかかってくる前と同じような状態だ。



つまり…ノーダメージ、である。



まあ少年の打撃を全て受け流して投げたからだけど。



こいつ、凄い。



俺との力の差が全くと言っていいほどわかってない。



怪我させないように投げ技しか使ってないし、あいつの攻撃を全て受け流してるのに…



未だにあいつは俺に勝てると思っている。



多分…俺に力が無い、と思ってるかもな。



だから投げ技しか使わない、って考えだろう。



「俺がこんなしょぼい奴に…!」


「もう止めなさい、そろそろ危ないわよ」


「これぐらい全然平気だ!」


「あ、ちょっ…!」



リザリーが少年を起こそうとすると手を振り払われ、また俺に殴りかかってきた。



…もう面倒くさくなってきたから次の一撃で決めるか。



俺は少年の拳を避け、次の蹴りを掴んで止める。



「なっ!?」


「これで終わりな」



驚いてる少年を尻目に俺はガラ空きの胴を手加減しながら殴った。



それでもアッパーカットで殴ったため少年は結構後ろに吹っ飛びテーブルを巻き込んで倒れる。



「程人?」


「いや、一応は手加減したよ?」


「もっと手を抜きなさいよ、大人気ない」



マキナが少年の所へ向かうのを見ながら俺はテーブルの位置を直そうとする。



「気絶してるね」


「これで分かったんじゃね?」



テーブルの位置を直しながらもリザリーから批難の目で見られた。




「つーか、養成学校って全寮制だろ?なんでこんな所にいるんだよ」


「あら、今更な事を聞くのね」


「悪かったな」


「研究の為に呼び戻したのよ、三日間だけ」




リザリーは、当たり前のことを聞かないで、と言ってマキナの所に向かう。

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