19
「あなたね…もういいわ、好きになさい」
…ついにリザリーが折れた。
俺としては面倒くさいのは勘弁してほしかったため、名も知らぬ少年ナイス!と心の中で思う。
「程人」
「ん?」
「あんたこんなガキにここまで言われても、なんとも思わないの?」
…そしたら何故かリザリーの牙が俺に向く。
なんで?八つ当たりにもほどがあるだろ!
その隠しもしない不機嫌そうな顔と禍々しいオーラを引っ込めろ。
「ねぇ」
「い、いや…別に…?」
リザリーに一歩近づかれると俺は一歩下がる。
そしてもう一歩近づかれても、もう一歩下がる…つまり気圧されている。
確かに八つ当たりはリザリーの専売特許的な所はあるけどさ…
それの矛先を向けられる身にもなれっつーんだよ。
「あんたそれでも男なの?」
「いやいや…所詮ガキの言うことやぜ?そこまでムキにならなくても…」
「プライドを持ちなさいよ!」
「え、えぇ~…」
なんで今俺怒られてんの?理不尽だよな?
これって理不尽な扱いの括りでいいんだよな?
「プライドって言われてもなぁ…」
「なによ」
「なんでそんな喧嘩腰なんだ?ちょっとは落ち着けよ」
俺は壁際まで地味に後退しながらリザリーを宥める。
男にここまで言われたら確実に殺すが、女の子…しかも幼馴染の前では心の広い俺である。
基本的にリザリーやマキナの前ではキレた事はないと思う。
記憶にある限り…だからもしかしたら忘れてるだけかもしれない。
男友達の前では何回どころじゃなくキレる。
心は広いが沸点は低いんだ、これが。
まあ友達に対してキレたのは数える程しかないけど。
「あんたの問題でしょ」
リザリーは俺を壁際まで追い詰めて顔のすぐ横の壁をドン!と叩く。
そしていつの間にか問題がすれ違っていた。
ここでソレを指摘しても良い方に転がらないのは、養成学校時代に嫌と言うほど体験している。
もはやこの状況になったらリザリーがスッキリするまで責められるのみだ。
逆にカウンターを喰らわすと…余計に嫌な事になる。
リザリーがマジ泣きしたり、マジで凹んだり、心に傷を負ったり…etc…である。
マキナもショコラも同じような感じだ。
あれはすごい気まずい。
雰囲気は悪いわ、ノリは悪いわ、見た目も悪いわ…結局は俺が責められるしかないのだ。
ソレを俺は13の時に悟った。
『女の子を泣かさないようにするには結局男が犠牲になるしかない』と。
我慢強く忍耐強い男になる為に坊さん並の修行に耐えたあの頃が懐かしい…
「聞いてんの?」
「ん?おっと、近い近い」
俺が今の状況と昔を照らし合わせて懐かしんでるとリザリーが俺の顔を覗き込んできた。
その近さに思わず顔を逸らす俺。
リザリーの不機嫌&禍々しいオーラが増したような気がする。
「そろそろ怒るわよ?」
「もう怒ってんじゃん」
「揚げ足とらないで…で?」
「はいはい、わかりましたよ…言えばいいんでしょ」
俺は適当な理由をでっち上げるために頭の回転を更に早くした。(気分的に)
なんて言おうかな…?0.08
負け犬の遠吠えにしか聞こえないし。とか? 0.23
そういう系がいいな 0.35
犬が吠えてるのと変わらないから気にする必要ない。…微妙だ 0.59
雑魚に何を言われても気にしないんじゃね?…いいかも 0.72
あまりにバカバカし過ぎて…ねぇ?…的な? 0.86
ネズミが鳴いてるのと変わらんよ、気にもならんだろ?…決定だ 0.98
「ネズミが鳴いてるのと変わらんぜ?気にするだけ無駄だろ」
ジャスト一秒。頭が冴えてます。
「ネズミ?」
「ものの例えだよ、全く持って対等じゃないだろ?俺とあいつは」
「…そうね」
「ネズミとゴリラぐらいの差はあると思うぜ」
「なるほど、それでネズミが鳴いてるね」
リザリーは理解したように俺の頭のすぐ横の手を退けてくれた。
ネズミが一匹いくら鳴こうがゴリラには全く相手にされないだろ。
俺はそれが言いたかったんだが、どうやら分かってくれたらしいな。
ついでにマキナもなるほど…と手をポンと叩いていた。
すると少年はテーブルを蹴り倒し俺の所へ走ってくる。
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