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「どうしました?」
「…なんでもないですー」
余計なことを考え、突っ立ってる俺に執事長(多分)が声をかけてきた。
少しばかり距離があるのにわざわざ俺の所まで歩み寄ってくる辺り気遣いのできる人だよなー。
俺は執事長の後ろをついて行く形で歩き始めた。
そして案内される事10分。
『王の間』と書かれたプレートがある部屋の前に着いた。
「ここに王がいます。では」
「あ、どもです」
執事長は俺に頭を下げると颯爽と何処かへ行ってしまう。
きっとまだやるべき仕事が残ってるんだろうな。うん。
そうでもない限りこんな所に客人を置き去りになんてしないだろ。
せめてドアをノックして部屋の中まで案内してほしかった…
これからどうすんの?ドアをノックして『誰だ?』って聞かれたらなんて言えばいい?
客人です。でいいの?それとも魔王軍です。って言った方がいい?
えーい!ごちゃごちゃ考えてても仕方ない!
俺は考える事を放棄して目の前のドアをノックした。
「入れ」
中から威圧感のある声が聞こえてきた。
「失礼しまーす」
俺はドアを開けて中に入ると王様らしき人物はなにやら書類を書き込んでいる。
うわ…王様になってもなお書類仕事とかあるの?
王様って以外と大変なんだなー。
まあ一応何をするにも最高責任者のサインが必要なんだろう。
って事は、だ。王様は決定権が欲しいとされる書類にサインするだけだろ?
あれ?ハンコ押すだけにすれば楽じゃね?王様ってそんな事を考えつかない程バカなの?
ハンコ押すだけの仕事じゃ周りから反感をかうんだろう、たぶん。
でも仕事してるだけ偉くね?
王様って何もしてないと思ってたし。
漫画とかアニメとかゲームの中の王様はただ王座に踏ん反り返ってるだけだから。
やっぱり二次元と三次元は違うか…
「何の用だ?」
部屋に入ってから一言も発さない俺を見て王様?は溜息まじりにそう言った。
え?王様?こいつが?
王様が上げた顔を見て俺は王様の顔をマジマジと見た。
「…何か付いてるのか?」
「いや王様にしては若いなー…って」
どう見ても俺と同じ年か少し上ぐらいの年齢にしか見えない。
若く見えるにも程があるだろ。
まさかこいつ漫画やアニメの世界から飛び出して来たのか?
主人公の親が異常に若かったり、30、40、50代の女の人がどう見ても10代前半から後半の少女にしか見えないとか。
そんな感じ?そんな感じなのか?
そして俺はさっきから疑問系ばっかりだな。
世の中には不思議が多すぎる。
「俺は代理だ」
王様は頭の中が軽くパニックに陥ってる俺を冷たい目で見ながら言い放つ。
「て事は王子?」
「そうだ、それにこれでもまだ24だ」
俺と2歳しか変わんねー…なのに代理かすごいな。
「見ての通り俺は忙しい、さっさと用件を言え」
王様改め王子は冷たくそして低く威圧感のある声をだす。
まあだからなんだ、って話だけど。
「ちょっと交渉をしに」
「交渉だと?」
王子は机の上にペンを置いて椅子に深く腰掛けた。
その拍子に椅子がギシッ…と音を立てる。
「俺は魔王軍としてこの国を侵略しに来たんだけど」
「魔王軍…魔物…か?お前が?下っ端か何かか?」
「一応自己紹介するか…魔王軍侵略第一部隊隊長の遠間 程人だ」
「トオマ…東洋人か」
そこ?引っかかる所違うくね?
にしても冷静な奴だな。
普通だったらもっと慌てると思うんだけど。
「で、この国が欲しいんだけどあまり手荒い真似はしたくなくてね」
「なるほど、それで交渉か」
王子は顎に手を当て考え始めた。
お、これは案外すんなりいけんじゃね?王様じゃなくてよかったー。
「…生憎とそんな戯言に付き合っている暇はない、お引き取り願おうか」
え、ええー…信じてもらえてなかったー…
「もちろんタダでとは言わないよ?」
「ほう?」
王子が興味深そうに目を細める。
「この国は盗賊団に宝を盗まれたんだろ?それと交換、ってのはどうだ?」
「ふっ、何を言い出すかと思えば…」
「中身全部」
王子が目を閉じると同時に俺は小箱を取り出し、逆さにして中身を全て床に落とした。
「な…!それは!」
王子が椅子を跳ね飛ばして宝の元へ駆け寄ってくる。
「これはアインクエットの王冠、これはサルカナの杖…これは…」
「おっと、この斧と剣は俺のね」
「盗賊頭が持っていた『グラディアス』…!」
流石の王子も冷静ではいられなかったらしい。
興奮した様子で宝を次々と手に取っていく。
これで分かったかな?つーか交渉が早く終わらないと城下町が壊滅するよ?
もうとっくに部下共は城下町に乗り込んでるし。
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