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「魔物だからしぶといな」



俺の部下共はさっきから虫の息だったのにまだ生きていた。



「お前ら動けるか?」



なんとか傷だらけの体で動こうとするがうまく動けないらしい。



それほどまでに部下共はダメージを受けている。



いやはや200体近くの魔物に致命傷一歩手前の傷を負わせるなんてヤバイよ、あいつ。



俺でもこいつらをこんな風にするには魔物に戻らないと無理なのに。



養成学校恐るべし、だな。



俺は部下から一旦離れて奴の所へと行った。



「そろそろ少年達を王都にでも連れて行かないとまずいんじゃないか?」


「…なぜだ?」


「魔物と国の英雄がお喋りしてたらあらぬ噂も広まるだろ?」



実はテロは英雄と魔物が手を組んで仕組んだ事、とか。



いや違うか、実はこの国の侵略は英雄と魔物が手を組んで仕組んだ事、だな。



俺としては早く部下共の治療をしたいんだから、さっさとどっか行けよ。



「それもそうだな…っと、忘れてたぜ」



奴は少年達を抱えると、何かを思い出したように俺に振り向いた。



「あいつ…メルガがこの国に来てたな。と言っても抜け殻のようだったが」



なんでこいつも俺に言うんだ?知ってるのか?



俺があいつと引き分けたのは何学年だったか…んー、覚えてないな。



確か5学年は越してたと思うけど。



「それでも気をつけろよ」


「忠告ありがとさん…あとちょっと早ければなおありがたかったけど」



もうバトっちゃったんだよね。



あいつ強すぎて俺はマジで死にかけたし。



「会ったのか…?」


「出会い頭に真っ二つ、そんで手も足も出ずに死にかけた」



人間だったらかるく二桁は死んでたな。と俺は付け加える。



「死神…強さは未だ衰えず、か…じゃあな」


「おうよ」



奴は少年達を抱えたままドラグーンに乗り飛び去って行った。



奴が飛び去り見えなくなるのを確認した俺は部下共の治療に移った。



「俺の左腕は後回しだな…」



トホホ…と言いたい気分になりつつ左肩から滴る血を舐めて能力を戻す。



俺は今までに流した血を操り、宙に浮かべて針状に固めた。



それを部下共に突き刺してとりあえず流血を止め、俺は食べ物を探すべく壊れた飲食店を回る。




魔物とは言え傷や体力を回復するには栄養が必要だ。



だけど植物みたいに体内で栄養を生成できるわけじゃない。



だが俺なら血に大量の栄養を含ませて部下共に供給する事ができる。



そうすれば部下共は魔物だし一日あれば全回復するだろ。



だから…俺は栄養補給するために喰う!



そこそこ本気出せば食べた物を3分あれば栄養に変えれる。



…ただ、かなりトイレが近くなるのが嫌だからあまりやりたくないんだけど。



でも死なれたら上の方から責任を取らされ…ゲフン!



大切な部下共のためだし!命には変えられないよ!うん!



約四時間かけて俺は街の食糧をすべて喰らい尽くした。



トイレに行った回数は二桁オーバー。



でもこれで部下共に栄養を与えられるな。



立ち上がった俺の上で全長3m程の血の塊が流動的に動いている。



あれだけあれば人間的な生物が三体は作れるだろう。



俺は頑張っても血の人形ぐらいしか作れないけど。



部下共の所まで歩いて血の塊を10m程の高さに上げる。



血の塊って言っても、ほとんど栄養水だから実質的には血は5%しか入ってないんだよね。



見た目だけだし。



俺が指をパチンと鳴らすと部下共に血の雨が降り注ぐ。



地面には落ちないように部下共だけを狙った放水(?)。



この技はかなりのコントロール力や繊細さを必要とする。



5分もしない内に血の雨は止んだ。



「これで明日になれば回復するだろう」



俺はさっき摂取した栄養で左腕を元に戻す事にした。



ピピピピ…ピピピピピ…



俺が左腕を治し終わるとタイミングを図ったかのように電子音が鳴った。



「あれ?珍しい」



俺の番号知ってるのって魔王軍にいる人間ぐらいなのに。



ポケットから小型の無線機を取り出してボタンを押す。(折り畳みケータイ電話型)



「はい?」


「おい負け犬、今すぐ戻れ」


「え、なんで?」


「魔王城に人間が攻め込んできた、それもかなりの数だ」



え?だから?そっちには魔王の六体と将軍達がいるじゃん。



俺は必要なくね?まさか…数が多すぎて猫の手も借りたい、とか?



「当たりだ、遊んでないでさっさと王都を落として戻ってこい」


「は!?俺、声に出してないけど!?」


「どうせ『猫の手も借りたい』とか思ってたんだろ」



鋭い。なんて人だ…さすがは元同族なだけはあるな。



「期間はどれくらい?」


「最低でも10日だ」


「分かりました」


「魔王軍は『他を攻める』ためじゃなく『魔王を守る』ためにある事を忘れるなよ」


「了解」



通信が切れ、俺はため息を吐いて地面に寝っころがった。



あーあ…明日あたり王都に行くか。



でも俺らじゃあ距離的に急いでも4日ぐらいはかかる。



王都を落とすのに最低でも3日ぐらいか…



まあ楽勝でしょ。



そういやエルー達はどうなったかな?



流石に奴の傷も癒えてると思うけど…王都で戦うのは勘弁したいぜ。



とりあえず交渉から始めるとするか。



あっちも宝は欲しいはずだし。



「ふぁ~…そろそろ寝るか…明日からまた忙しくなる…ぞ…」



今回は民家に入らずに地面に寝っ転がって寝る事にした。



その方が何かあってもすぐに対処できると思ったから。






翌朝、周りのうるささに目を覚ますと部下共が騒いでいる。



どうやら傷が完全に治ったから準備運動がてらに部下同士で軽く戦っていたらしい。



傷が治ったのに戦うなんて本当にバカだよな、こいつら。

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