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「なに!?…なにが目的だ?」
「いやいや…目的はもう果たしたんだよ」
一応英雄との戦いはただのお遊び。
そこまでムキになる事じゃねえし、勝ち負けなんてどうでもいい。
「その言葉を信じろと?」
「まだ戦いたいならやるよ?今度はお前を殺す気でやるけどな」
俺は剣を抜き、地面に突き刺す。
まるで豆腐に爪楊枝でも刺すように剣の柄までスッと刺さる。
上等な剣と、剣の使い手が相当な腕じゃないとできない芸当だ。
それを見た奴は顔から滴る冷や汗を拭いもしなかった。
俺は屈んで地面から剣を抜き、再度鞘に納める。
「やるか?」
「いや、やめておく…」
ようやく奴は冷や汗を拭い、剣を鞘に納めた。
うーん…ぶっちゃけると俺が得意なのは刀剣よりも剣斧槍(ハルバード)なんだけどな。
けんふそう、って言う俺オリジナルの武器は作るのに三年ぐらいかかったし。
普通は半年あれば作れるんだけどね…よく教官に『まだ完成しないのか?』って言われてたな。
どうせ侵略だからって魔王城に置いてきたんだっけ。
「なぜ死なないのか、聞いてもいいか?」
俺に敵意が無くなったのをやっと悟ったのか奴が聞いてきた。
「裏切られて死んで、魔物として生き返った」
俺は簡潔に事情を説明する。
「裏切り…だと?それに生き返った、とは?」
やっぱりそうなるよな。
あー、今から会う奴にいちいち細かく説明しないといけないの?
面倒くさいけど逆の立場だったと考えたら…うん、俺だったら絶対に根掘り葉掘り詳しく聞く。
だって面白そうだし。
とりあえずある程度は説明した。
今の俺の状態、状況、目的、あの少年達にやった事の真意まで。
「そうか…ユニオン兵士養成学校に、か…確かに良いアイディアだ」
20分ぐらいはかかったかな?今度は俺が質問する番だな。
「今度は俺の番、なぜ王都からあんなに早くここに来れたのか、だ」
「ああ、それはだな」
奴はピィー!と指笛を吹いた。
1分もしないうちに何かがここに向かって飛んできた。
「紹介しよう、俺の相棒のサルサだ」
バッサバッサと翼をはためかせ着地点の周りに風圧をかけながら何かが降りてきた。
「は!?」
俺は降りて来た何かを見て自分の目を疑った。
何回か目を擦ってよく見るが、結果は変わらない。
「こいつが…相棒?」
「そうだ、サルサって言う名前だ」
種類は分からんがな。と言って軽く笑う奴をよそに俺はそのサルサとやらをジッと見る。
…どっからどう見ても『ドラグーン』だよな?
確か一角飛竜はバハムートの次に希少な魔物だったと思うんだけど。
てか魔界にしかいないんじゃなかったっけ?
この世界に一角飛竜は数匹しか存在しないはず。
俺は魔王軍の飛空部隊の飛空総隊長のドラグーン一匹しか見た事ないのに…
こいつの実力すげえな。
ドラグーンはその強さゆえのプライドの高さで、自分より弱い奴の下にはつかないはずだ。
しかもその強さは龍、飛竜の中でも上位の方って聞いたけど。
まあでもこれで謎が解けた。
ドラグーンって子供でも飛行スピードは最高150kmまで出るって聞くし、こいつに乗ったんならそりゃ早くも着くわけだ。
「グルルル…!」
ドラグーンが一丁前に俺に対して威嚇してくる。
「あ?んだ、てめぇ…やんのか?」
イラっとした俺はドラグーンに近づいてメンチをきった。
まだ子供のくせして誰に対して威嚇してんだ。
たった4m程の体長でこの俺に勝てるでも思ってんのか?
うちの飛空総隊長は体長20mはあんぜ。
俺の変な威圧感?に負けてかドラグーンは少し後ずさる。
「また調子に乗ったらぶっ殺すぞ!」
今度こそドラグーンは後ろに下がり俺との距離を空けた。
「あんまり俺の相棒を虐めないでくれ。…それよりお前の部下はいいのか?」
「忘れてた」
俺はダッシュで倒れてる部下共の所へ急ぐ。
「魔物だからしぶといな」
俺の部下共はさっきから虫の息だったのにまだ生きていた。
「お前ら動けるか?」
なんとか傷だらけの体で動こうとするがうまく動けないらしい。
それほどまでに部下共はダメージを受けている。
いやはや200体近くの魔物に致命傷一歩手前の傷を負わせるなんてヤバイよ、あいつ。
俺でもこいつらをこんな風にするには魔物に戻らないと無理なのに。
養成学校恐るべし、だな。
俺は部下から一旦離れて奴の所へと行った。
「そろそろ少年達を王都にでも連れて行かないとまずいんじゃないか?」
「…なぜだ?」
「魔物と国の英雄がお喋りしてたらあらぬ噂も広まるだろ?」
実はテロは英雄と魔物が手を組んで仕組んだ事、とか。
いや違うか、実はこの国の侵略は英雄と魔物が手を組んで仕組んだ事、だな。
俺としては早く部下共の治療をしたいんだから、さっさとどっか行けよ。
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