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少年達を離したおかげで両手が自由になり、立ち上がるとすぐにポーチから小箱を取り出した。



「斧」



俺は小箱から斧を取り出して構える。



「その斧は…!」



英雄?が俺の持ってる斧を見て驚いていた。



「あの有名な盗賊団のリーダーが持っていた『グラディアス』!」



ん?この斧に名前なんてあったんだ。



グラディアスか…かっこいい名前だな。



「くっ!」



英雄が素早く距離を詰めてくる。



「おっと」



英雄?の剣を斧で受け止め、鍔迫り合う。



「ぐ…!お、お前は…!」



ギイン!と音を立て英雄?は俺から距離をとった。



「テイト、そう…確かテイト・トオマ」



なんだこいつ?なんで俺の名前を知ってんの?



思い出せないから多分知り合いでは無いだろうし。



俺って実は結構有名人だったりする?



「だれ?」


「覚えてないのは無理もないか…なんせ六学年の終わりで去ったからな」



六学年…?六学年ってまさか養成学校時代か?



「テイト・トオマ、キナル・リーブス、カールストン・レイチャー…」



英雄?は俺以外にも15人程の名前を挙げた。



「俺はそいつらの名前と顔をひと時も忘れた事は無い…何故だが分かるか!?」


「知らんわ、てかいきなり大声だすなよ」


「ああ、お前らは知らんだろう、本人達は知らないものさ」



俺がそいつらと一緒に何かしたのか?初めて聞く名前ばっかりだが。



「教えてやろう、お前らの共通点…それは」



英雄?は息を大きく吸い込んだ。



「養成学校の成績としては中間より少し下ぐらいなのに全然学校を辞める気が無かった事だ!!」



え、ええー…なにそれ…?ガチで意味分からないんだけど。



「俺はあの時お前らと同じ位置にいて…カリキュラムについて行くのが辛くて常に辞めようと思っていた」



なんだ?こいつ急に語り始めたぞ。



「なのにお前らと来たら一向に辞める気配を見せずに七学年まで上がりやがって…!」



ちょっ……ただの、どころか完全に意味の分からない逆恨みじゃん。



「お前らが七学年に上がると知った時に俺は決めた!ユニオン共和国からの軍人としての誘いを蹴り、別の国で英雄となりお前らを見返してやると!」




まじで意味分からない。



なんなのこいつ、頭のネジが飛んでんの?それとも足りないの?



とりあえず一つ分かるのは、こいつが救い難いアホだという事か。



「まあ六学年までいたんならどんな落ちこぼれでも、他の国では英雄扱いされんじゃね?よかったね」


「くくっ…こんなに早くその機会がくるとは…やはり人を助けたり善行は重ねるものだな!」



まあ多分良い奴だとは思うよ?



今見た感じ正義感の強い熱血漢とでも言うか…



今でも倒れてる少年達をチラチラ見てるし。



「行くぞ!テイト!」



一応英雄がまたまた正面から斬りかかってくる。



さっきから思っていたんだけど…俺の前に部下共の相手をしたからか、こいつの動きには全くキレが無い。



あんな数を倒せるというなかなかの人外さを発揮してるけど、俺の部下共を相手にして無事なわけがない。



こいつもかなりスタミナが削られてるし、傷も浅くはないはずだ。



たとえ元養成学校にいたとしてもそんな状態で俺に勝とうなど考えが甘いわ。



「く…ぐ…!」



今度は俺の方から攻めた。



大きいくせにとても軽い斧を片手で振るう。



一応英雄はなんとか剣で受けきっているが、少しずつ弾かれていく。



「面倒くさいからこれで終わりだ」



左手で剣を抜き、奴のガラ空きの胴を切る。



「くあ…!」



斧を受けきりながらもギリギリのステップで斜め後ろに半歩下がった。



「すげ…」



流石に今の動きは俺も感嘆せざるを得ない。



完全に胴を切り裂くと思っていたのが薄皮一枚でかすっただけだった。



だが鎧の前面は横に真っ二つ。



鎧の下の方が地面に落ちる。



「痛って!」



運悪く下に落ちた鎧の半分が俺の右足の爪先を強打した。



その予想外の痛さに俺の動きが一瞬止まり、奴はその勝機を逃さない。



俺の胴体が真っ二つにされ、左腕が細切れになった。



「はぁ…はぁ…悪く、思うなよ…これも戦いだ」



倒れている俺を見て喜ぶのかと思いきや、速攻で少年達の元へ走って行った。



「悪くなんて思わないぜ」



俺は右手で胴をくっつけ、ポーチから小箱を取り出し斧をしまう。



残念ながら細切れになった左腕は今は戻せない。



「なに!?」


「まあ今回は俺の負けって事で終わらないか?部下共の治療もしないといけんしな」


「お、前…なぜ…」



生きてるのか?って?説明するの面倒くさいな。



「知りたいか?」


「くっ…!」



奴は驚愕の表情を浮かべ少年達を後ろに庇うようにしながら剣を構えた。



「はあ…終わりだよ」



俺はため息を吐きながら剣を拾って鞘に納め、右手を挙げて降参のポーズをとった。

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