第9話 青春にはすれ違いが付き物である
クラスメイトの視線だけでライフポイントがガリガリ削られていた俺は、戦略的撤退を試みる。
つまり、教室外に逃亡しようとしたのだ。
だが、出来なかった。
腰の辺りに感じる、微かな抵抗。後ろを向くと、桜川さんが腰の辺りのシャツを摘まんでいた。
「か、かわいいって言ってくれて、うれしい……ほんとに、私かわいい?」
そう言いながら、軽く顔を覗き込んでくる桜川さん。桜川さんの吐息が顔にかかりそうになり、慌てて距離をとる。
え、なぜそこで不満そうな表情をなさるのですか?
「ま、まあかなりかわいいと思うよ? 前のロングも良かったとは思うけど」
なんだか墓穴を掘り続けているような気がするな、などと考えていると、学級委員長の松本若菜さんが近づいてきた。学校行事などでも積極的にクラスを引っ張り、とっさの状況においても冷静に対処する『頼れるお姉さん』的委員長だ。きっと、この状況を解決しようと近づいてきたに違いない。
「えっと、桜川さんと北原くんはお付き合いしているのかしら?」
おい委員長、何話をややこしくしようとしてるんだ! いつもの適切な判断はどこにいったんだよ!?
「うん、そうなの」
「いや、そんなはずがないだろ?」
同時に答えた、俺と桜川さん。なぜに発言内容が食い違うんだ?
しかも、なぜ桜川さんは肯定したの!?
固まる俺たちに、松本さんは破顔しながら話しかける。
「まあ、確かに桜川さんみたいな美人と北原くんが付き合うわけないよね! しかも、北原くんは二次元にしか興味ないでしょ? せっかくそこそこカッコいいのに」
そう言いながらバンバン肩を叩いてくる松本さん。何だか、貶された気がするのは気のせいなのか?
桜川さんはどう思ってるんだろうと視線を向けると、俯いてぷるぷる震えていた。
「だいじょうぶ? 体調でも悪いの?」
声をかけると、桜川さんはさっと顔をあげ、キッと俺を睨んだ。思わずたじろぐ俺。
「こ、このバカあ!」
そう叫ぶと、とても怒りながら教室を出ていった。
残されたのは、あちゃーといいながら額を押さえる松本さんと、呆然とする俺。そして極冷気の視線をぶつけてくるクラスメイトたちだった。
固まって動けない俺の肩をポンと叩き、松本さんが言う。
「北原くん、桜川さんを追いかけなさい」
どうやら、その選択肢しか残されていないようだった。
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