二次元にしか興味のなかったヘビーなオタク(俺)が、学年一の美少女と付き合うハメになった件

第8話 クールビューティーより、愛想がある方が良かったりする

　昨日の桜川さんは何だったんだ？　激しく自分を責めていたから、自分なりに慰めてみたらいきなり抱きついてきたんだが……しかも、俺どさくさに紛れて桜川さんの頭とか撫でちゃってるし!?

　ていうか、今日どんな顔して桜川さんに会えばいいの!?　席、隣なんですけど！

　などと自分の席で悶々としていると、教室のドアがガラガラと開いた。不自然なぐらいビクッ！とする俺。

　だが、入ってきたのは幸いにも桜川さんではなく、伊織だった。安堵感に胸を撫で下ろす俺に、怪訝な顔をした伊織が尋ねてくる。

「どうしたんだ？　人の顔を見るなり、オバケに遭ったみたいな表情しやがって」

「いやあ？　何も無いに決まってるじゃん？」

　我ながら白々しい弁解だが、伊織は納得してくれたようだ。やっぱり、持つべきものは親友である。伊織は自分の席に荷物を下ろすと、いつものように俺の前の席に座る。

「ところでさ、今期のアニメ見た？　あれ、マジで感動するんだけ……」

　突然、伊織の言葉が止まる。視線は一点に固定されて動かない。不可解に思い、視線の先を辿ってみるとーーー

　髪を肩あたりまで切って、ボブカットにした桜川さんが教室の入り口で佇んでいた。軽く頬を染め、微笑しながら、形のよい唇から声が漏れる。

「みなさん、おはようございます」

　瞬間、クラス全体の空気が音を立てて固まった。たっぷり３秒ほど固まった後ーーー

「「桜川さん、かわいい！！」」

　クラスメイト全員が叫んだ。思いもよらぬ反応に、わたわたする桜川さん。その周りにどっと人だかりができる。

「ねえ桜川さん、いきなりどうしちゃったの？　めっちゃ可愛いんだけど！」

「だよねー！　てか、切った髪も超似合ってるし！　やっぱり桜川さんは何やっても可愛いね！」

「俺、今まで生きてきて良かった……ああ、神よ……！」

「笑った桜川さん見られるとか、俺このまま死んでもいい……！」

「てか、そもそも桜川さんマジ天使」

　途中から変なのが混じりまくったが、それほど桜川さんの微笑は破壊力があった。何せ、二次元にしか興味を示さなかった伊織が、口を半開きにしながら固まっているのだから。

　え、俺？　俺はもちろん驚いてませんよ？　だって、桜川さんに抱きつかれた時の方がビックリしましたから。

　何故か内心で強がっていると、人だかりを掻き分けて桜川さんがこちらにやって来た。

「あ、あのっ！　拓海くんおはようございますっ！」

　ダメだ、なんて破壊力だよ!?　照れながらペコリと頭を下げる桜川さんとか反則じゃないかよぉぉぉ！　てか、何で桜川さんが俺のことを下の名前で呼んでんの!?

　などと軽くクライシスを起こしつつ、どうにか言葉を絞り出す。

「お、おはよう桜川さん。か、髪切ったの？　可愛いじゃん」

　何言ってんだよぉぉぉ！　女子に『可愛い』とか言っちゃうとか、人生終わった……

　と悶絶する俺の前で、言われた当人である桜川さんの顔がみるみる間に真っ赤に染まり、

「あう……」

　と言って俯いてしまった。助けを求めようとクラスを見渡す俺に、全員から一言。

「「今のは、全部お前が悪い」」

　冷たい視線がグサグサ刺さります……