第2話 クールビューティーな桜川燈子


 すらりとした長身に、腰近くまで伸びる絹糸のような艶やかな黒髪。女優顔負けの小顔に猫のような目力を持ったつぶらな瞳がそつなく収まり、ワインレッドのメガネが理知的他印象を与える。纏う雰囲気はクールビューティーのそれで、少し話しかけずらさすら感じるのが桜川燈子だ。


 対照的に、ショートカットが程よく日焼けした小顔によく映え、常に笑顔を浮かべながら社交的に皆に接するのが上谷結衣だ。バトミントン部のキャプテンで、シングルスで全国大会に出場したこともあるスポーツ少女ながら、成績も学年二位を常にキープし続けるという超人だ。


 と、そんなことを考えているうちに自教室の前に着いた。俺はちなみに桜川さんと同じ二年三組だ。真っ白な引き戸を開け、座席表にしたがって着席する。


「よっ、タク。また同じクラスになれたな!」


 そう言いながらこっちにやってくるイケメンは持田伊織だ。こいつ、イケメンで成績優秀、スポーツ万能でむちゃくちゃモテるくせに彼女がいない。


 理由は簡単、伊織は二次元にしか興味が無いから。


 神様って何だか大切な部分を間違えてると思うんだよぉぉぉー! 


 いかん、つい本音が出てしまった。


「まあ、何だかんだ言って伊織とは中学から同じクラスだよなぁ。そろそろ運命感じないか?」


 なにバカなこと言ってんだ、と笑いながら俺の前の席に腰掛ける。席の持ち主の女の子が視界の端で頬を染めているのが見えた。全く、イケメンは得してると思う。


 と、足元に消しゴムが転がってきた。得に何も考えず、拾って持ち主を探す。

 ……え、桜川さんが隣の席にいる!? まさか、隣の席とかいうハッピーですか!


 などと考えながら硬直していると、桜川さんが口を開いた。


「あの、私の消しゴムを返してくれませんか?」


 銀糸を弾いたような、高く綺麗な声に思わず聞き惚れる。再度硬直した俺の手から伊織が消しゴムを奪い、桜川さんに渡す。


「ごめんねー。タク、美人に見惚れてラグッてるみたいだから」


 そう、という声を残して隣の席に戻って行く桜川さん。その姿をポカンと眺めていると、隣から不機嫌な声が飛んできた。


「まさかタク、三次元に興味を持った訳じゃないよな? 俺たちの『二次元同盟』、忘れた訳じゃないよな?」


「お、おう、忘れる訳ないじゃないか! 俺たちが愛するのは二次元のみ。そうだろ伊織?」


 正直、可愛い女の子に見惚れるのは健全な高校生男子なら仕方のないことなんじゃないかなと思うのだが。矯正するためには遺伝子レベルでの修正を施さなきゃ。


 こうして俺の高校二年生はちょっぴり、いや、かなりハッピーな形で始まったのだった。

 

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