💘25 何かがおかしい
「えぇっ!? じゃあ真衣はスパポーンが男だって知ってたの!?
早く教えてくれればよかったのにぃ~!」
「だって、ちえりがスパポーンとすでに接触してたなんて知らなかったんだもの。
それに格闘系サークル内では周知の事実だし、伝える必要性を感じなかったというか」
エキゾチック美人のスパポーンが男性だったと知り、翌日の昼休みにあたしは真衣に詰め寄った。
梅雨の合間に青空が広がる昼下がり。
既に夏の匂いが立ち込める芝生広場のベンチに腰掛けているのだけれど、あたしの話を聞いていた渚はアイスカフェラテを片手にむせるほど笑い転げている。
「それで、スパポーンが突き落としの犯人でないことはわかったんだけどさ。結局犯人は見当つかないし、ビクビク怯えてても仕方ないから、もう開き直るしかない! って思って……」
「ふぅん……」
女子トークに飽きたのか、ランチの間ぴったりとあたしの隣についていたリュカは、今は少し離れた噴水の辺りで鳩と世間話をしている。
バイト一筋の渚はまったくの部外者という
なんだろう。
上手く言えないけど、真衣の様子がいつもと違う気がする。
いつも冷静で一定の低めテンションを保っている真衣だけれど、あたしの話はいつもきちんと聞いてくれるし、的確なアドバイスをくれたりもする頼りになる存在だ。
けれど、今日はなんだかあたしの話を聞き流しているというか、心ここにあらずというか。
「真衣……。なんかあった?」
「え? 何が?」
「いつもとなんかリアクションが違うよ?」
「そぉ? ……別に、なにも」
今ちょっとギクッとしたよね?
やっぱり何かおかしい。
あたしから目を逸らしてアイスティーを飲む真衣をじっとりと見つめていたとき――
「藤ヶ谷サン」
呼ばれた声に弾かれて振り向くと、そこに立っていたのは私服姿で黒髪を下ろしたスパポーンだった!
まとわりつく湿気をさらりと
やっぱりどこをどう見てもスレンダーな美女にしか見えないよ!!
「き、昨日はどうも」
これまでとは打って変わり、フレンドリーな笑顔をこちらに向けているスパポーンの豹変ぶりに戸惑いつつ挨拶すると、彼女……いや、彼は吊り目がちの大きな瞳を細めて、あたしが座るベンチの背に手をかけた。
「こんなトコで会えルなんてラッキーだワ。時間があるナラカフェで話さナイ?」
「はいっ!?」
昨日は宣戦布告を撤回しないって言ったくせに、あたしをお茶に誘うってどういうこと!?
渚は噂のスパポーンの登場とあって、彼の美貌を舐め回すようにニヤニヤと見ているし、真衣はなぜか顔を背けてストローをずずっと鳴らしている。
「マスのこと、色々知りタイんじゃないノ?」
大山先輩の名前を耳打ちされて、心臓がトクンと鳴った。
それって、スパポーンから先輩の情報をいろいろ聞き出せるってこと……?
ちらりとリュカの方を見たけれど、彼は鳩と熱心に話し込んでいるらしく、こちらに背中を向けてしゃがみこんだままだ。
「4限は取ってないから、しばらくは時間があるけど……」
躊躇いがちなあたしのその言葉にスパポーンは満足そうに頷くと、「ジャ、行きまショ!」とあたしの腕をつかんで立ち上がらせた。
「行ってらっしゃーい! 後で話を聞かせてねっ」
最後までニヤニヤしている渚に手を振られ、最後まで心ここにあらずな真衣に一瞥されて見送られる。
(リュカッ! こっちに気づいてよっ)
艶やかな翼をこちらに向けてしゃがみ込んでいるリュカにテレパシーを送ったけれど鈍感な彼が気づくはずもなく、あたしはスパポーンに腕を絡め取られたまま講堂のカフェへと連れて行かれたのだった。
👼
「……で? 大山先輩の何を教えてくれるの?」
席に着き、昼休みだけで二杯目のアイスカフェラテを頼んだ直後、目の前でにこやかに微笑む “女装の麗人” に単刀直入に切り出した。
スパポーンの意図がまったくわからない。
昨日の敵は今日の友とでも?
まさか。
ワイクルーを踊ってまであたしに宣戦布告した彼が、いきなり友好的になるとは思えない。
「その前ニ、まずアナタとワタシのLI〇Eヲ繋げさせテ?」
「は? なんで?」
「ワタシとL〇NEが繋がったラ、マスの写真を共有してアゲようト思っテ」
そう言って彼が自分のスマホを取り出して見せた画面には――
「おっ……お、おお……!!」
思わず声を漏らしてしまうほどの大山先輩のお宝ショットがぁぁっ!!!
空手をやっている凛々しい写真はもちろんのこと、キャンパスで撮ったらしき普段着の先輩、気を許した友人だけに見せる満面の笑みの先輩、そしてそして……仲間と海に行った時の、シックスパックの陰影がくっきりと写った水着姿の先輩……(鼻血)
こ、この数枚だけで白フン姿の
気がつくとあたしは自分のスマホを取り出し、突き合わせたスマホをふるふると振ってスパポーンとLI〇Eを繋げていた。
スマホを
「ねえ。どうして急にあたしをお茶に誘ったの?
LI〇Eを繋げようなんて言い出すし、これじゃまるで友達みたいじゃない」
スパポーンは薄紅色の柔らかそうな唇をストローからそっと離すと、エキゾチックな笑みを浮かべてあたしを見つめた。
「友達ニなりたいんじゃナイワ」
「え……?」
その美貌に惹き込まれそうになったあたしの前に女の子のように綺麗な指が伸びてきて、テーブルに肘をついていたあたしの指に絡まる。
「ワタシがなりタイのハ友達ジャない。
アナタの恋人ニなりたいノ」
「え……?」
え……?
ええーーーーーーっっっ!?
傍から見たら、女同士が指を絡めて見つめ合う百合展開。
こ、これは一体どういうことーーーー!?
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