四冊目

 次の日、私の家で、四冊目の会議をすることになった。

「やっぱり、寺子屋物語で行きましょうよ」

「怪し寺子屋物語みたいなのはどう?」

「また、妖怪が出るの?」

「うん、毎回違う妖怪で大騒動的な」

「まあ、いいわね」

「待って、花ちゃん、お宮様、私、そんなに妖怪に詳しくないんだけれども……」

「詳しくない? だって~!」

 お宮様が腕をまくった。

「小説ってものは、知らなかったら調べるの、それもできないで書こうと思わない方がいいわよ」

「はい!」

「お宮様、相手は、青ちゃんだよ、調べることが得意だとは思えないよ」

「まあ、そうね」

「そんなことないもん」

「じゃあ、調べる?」

「……ごめんなさい」

 キャーキャー言いながら、考えを言っていると、お母さんが入って来た。

「ここは、貸本屋よ、静かにね」

「はい」

「でも、楽しそうね」

「はい、だって、私たちは三人は、三人で初めて出来あがるんだもの」

「うん、仲良くね」

「「は~い!」」

 楽しそうに返事して、静かになる。

「私たち、次の作品は、うまく行くかしら?」

「それは、心配よね」

「大丈夫だよ」

「青ちゃんは、呑気に構えすぎ」

「書きたいものが降ってくると、うまくいくんだよ」

「でも、いつ降ってくるの?」

「さあ?」

「だめだめじゃん」

 ドンドンと音がして。

「うるさいって」

「は~い」

 静かになったが、すぐに盛り上がってしまう。どうしても、三人で集まると楽しくなってしまうのだった。

(ダメだこりゃ)

「落ち着こう」

「うん」

 三人で同時にお茶を飲んだ。

「うん、落ち着いたね」

「それじゃあ、資料を集めますか」

「そうだね」

「そう言っても、隣の貸本中から探すんだけどね」

「まあ、いいじゃん」

「楽でいいよね」

「そのために、青さんの家に集まっているんでしょう」

「そうだったの?」

「そうだったわね」

 お宮様は言葉をにごした。

「まあ、いいから、一冊ずつ集めて」

「「は~い」」


 ☆ ● ☆


 そして、十五分後。

「取り合えず、十五冊に絞ったよ」

「そう、私は、三十二冊」

「私は、画集にしたわ」

「そうね、いいと思うわ」

「絵も大事だからね」

「うん、それは、よくわかっているよ」

「怪し寺子屋物語に使えそうなのは?」

「どれだろうね」

「きつねとか?」

「どうかな~、じゃあ、雪女とか」

「う~ん、ピンとこないな」

「う~ん」

 ペラペラ紙をめくる。

「なかなかいいのがないよね」

「絵映えのする妖怪はっと」

「う~ん」

 悩みに悩んでいた。


  ☆ ● ☆


「もう日が陰っている」

「帰らなくちゃ」

「うん、またね」

「青ちゃん、次に会うまでに決めておいてね」

「うん、わかった。一所懸命本を読んでみるよ」

「がんばって」

「うん」

 手を振って見送った。

「さてと」

 本を手に取り、読もうとした。それは、『雪女』と言う花道先生の作品だった。

(あのおばちゃんの作品)

 かえって興味がわいた。

「恋物語か」

 雪女は、人間に恋をしてしまうが、叶わず、雪山に帰ってしまう。そこで、終わりかと思うと、雪山に恋した男が登ってきて、両想い、だけど、凍死してしまうのだった。

(なんだか、悲しいお話だ)

 文章も美しく、余韻に浸れた。

(花道先生は、ステキな文を書くな)

 あのおばちゃんと言ったのは、取り消そう、ステキなおばちゃんだ。

(でも、花道先生の様には、書けないな)

 ふと、雪女は、友達になりたいのに声をかけられなかったお宮様みたいだと思った。

「そして、声をかけて、今に至るか……」

 そう思った時、何かが降って来た。

(書こう、私たちの物語を……雪女が友達を作る話を)

 そう心に決めた。

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