④
次の日、寺子屋に向かうと、急展開な出来事があった。
「何か、この寺子屋で、内緒でお金を稼いでいる人がいるらしいよ」
「え~」
(! 私たちか?)
ふと、そう思うと、前の人は。
「しかも、なんか、かなり稼いでいるみたい」
「へ~」
「先生がその子を放課後呼びつけるってうわさ」
「うわさだろう」
「まあね」
(うわさか)
うわさは、本当じゃないこともあるので、信じないようにしよう。
そう思ったが、やっぱり気になる物で。
「花ちゃん、うわさ知っている?」
「うん、やっぱり、私たちの事かな?」
「そうだよね」
二人で沈んでいた。
☆ ● ☆
その日の放課後、呼び出されたのは。
「宮さん、少し来ていただけますか?」
何とお宮様だった。
「はい」
お宮様は素知らぬ顔で先生と消えた。
「うそっ、商売って、お宮様が? そんなことするわけがないじゃない」
「そうだよ、金持ちだもの」
「危険を犯してまでやることじゃないよね」
「所詮、うわさか」
「だれ? うわさ流したの? どうせ、お宮様の事だから、寄付の話で呼び出されただけだよ」
「そうね」
みんなが、お宮様はシロだと決めつけていた時、私は気が気じゃなかった。
(あのね、お宮様は、商売しているの)
心の中で、ザワザワともやが集まってくる。
(ばれてしまった。十兵衛姫は解散だ)
冷や汗が伝る。
「みんな、帰ろうぜ」
「おう」
人がいなくなる。でも、体が動かない。
「あっちゃん、青ちゃん」
「はい!」
「大丈夫?」
隣の席の女の子が声をかけてきた。
「昼だけど、貧血とか?」
「ちがうよ」
「でも、顔色青いよ」
「!」
(私は、怖い、十兵衛をなくすことが……)
心の中で、じわっと痛みが広がる。
(こんなに大切になっていたなんて、知らなかった……)
自分の気持ちに初めて気が付いた。
(私に取って、『十兵衛』は大切な物なんだ)
そう思うと涙が込み上げてくる。
「青ちゃん!」
隣の席の女の子が心配してくる。
「大丈夫だよ」
涙をぬぐって、無理やり笑顔を作る。
「本当に大丈夫? やっぱり、顔色悪いよ」
「大丈夫だって」
「私が、家まで連れて行くわ」
花ちゃんがそう言って手を差し出した。
「お願いね、花ちゃん」
「うん、任せて」
帰りは花ちゃんと手をつないで帰った。
「十兵衛姫無くなっちゃうのかな?」
「どうかな?」
花ちゃんもよく見ると渋い顔をしている。
(平気そうだけど、平気じゃないんだ)
そう思うと少しだけ心が温かくなる。
「たぶんね、大丈夫だよ、青ちゃん、お宮様なら、素晴らしい言い訳を考えていそうじゃない?」
「どうかな~、お宮様は少し甘いから」
「あっ、なんか、それ分かる、詰めが甘いよね」
「そうそう、いつも、何か足りなくてさ」
「自分は、なんでもできると思っているみたいだけど、分かってないし」
「でも、そんなお宮様がいたからこそ、今があるんだよ」
「そうだね」
少し落ち込んでしまった。
「明日になったら、ひょっこり、別の名前で続けるとか言いそう」
「ああ、そうかもね」
(お宮様なら、やりかねない)
心のどこかでそう思った。
(十兵衛じゃない名前か……)
別に十兵衛にこだわる必要などないのだ。
(でも、何か嫌だな)
今までの活動の思い出は、十兵衛姫の物で、それが無くなるような、そんな感覚を感じていた。
「その時は、好きな名前付けようよ、夢美とか、紅姫とか、かっこいい名前は、一杯あるよ」
「そうだね」
少し、花ちゃんが、十兵衛姫を捨ててもいいと持っている事にショックだった。
(まあ、仕方がないか、花ちゃんなりの、なぐさめなのかもしれないしね)
そう思う事にした。
☆ ● ☆
家に着くと、お母さんに。
「お宮様が、つかまっちゃった」
「何をしたの?」
「寺子屋に無許可でお金を稼いだとか」
「青、別に、それは、悪い事じゃないし、先生が怒ることでもないわよ」
「えっ?」
「お金を稼いだって、いいのよ」
「え~!」
「貧しい家の子は、普通に稼いでいるわ、きっと別な理由で呼び出されたのよ」
「じゃあ、ただのうわさだったの」
「たぶんね、でも、犯罪でお金を稼ぐのはだめよ、盗みとかさぎとかね」
「それは、当然だよ」
「わかっているならよろしい」
(でも、それじゃあ、なんで呼び出されたのかな?)
話が合わなくなる。
(でも、悪い事じゃなさそうだし、明日きくか?)
呑気にそう思っていた。
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