そして、次の日、『ざしきわらし』と『闇のざしきわらし』は続き物ではありませんと書いて、家を出た。

「青ちゃ~ん」

 花ちゃんが迎えに来た。

「『闇のざしきわらし』を書いた人ってわかったの?」

「うん、お父さん」

「わ、本家か」

「うん、そうだよ、だから、貸本屋も怪しまなかったみたい」

「そうだよね、知らない作家さんだったら、貸本屋の店主は、いいって言わなさそうだものね」

「早く気が付けばよかった。字はお父さんの物だったんだもの」

「意外と気が付かない物だよ」

「そうだね」

 頷いて、寺子屋の入り口にいるお宮様にあいさつをした。

「おはようございます」

「おはよう」

「貸本屋の本は、どうなったのかしら?」

「あっ、『闇のざしきわらし』を書いたのは、青ちゃんのお父さんだったの」

「えっ? 本家」

「そうなんだ。何考えているんだか、お父さんは」

「十兵衛の本家なら、あの面白さも納得だわ」

 お宮様も、お父さんのことは、認めているようだ。

「これにこりずに、次の話を考えろって事ね」

「そうだね」

「次は、何がいいかしら?」

「降ってくるみたいなことがないと、考えが浮かばないや」

「そういう物ね」

 三人で寺子屋の中に入って行った。


  ☆ ● ☆


 そして、放課後、私の家に集まった。

「十兵衛の本って興味深いものが多いよね」

 お宮様は、本を取りそう言う。

「まあ、長く書いていたからね」

 十兵衛の本は、全部で五十冊もあった。

(お父さんは、お母さんのためにこれだけの考えを本にしたんだ)

 少しすごいと思った。

「一冊一冊がおもしろいよね」

「うん、そうね」

 花ちゃんが返事した。

「私たちじゃ、まだまだ十兵衛には及ばないか」

 花ちゃんがため息をついた。

「まあ、これだけ書いて下手だったら、それもかわいそうな気がするけれどもね……」

「確かに」

「私たちも、このくらい書けば、うまくなるって事よ」

「そうありたいね」

「そうだといいな」

「それは、分からないよね」

「こればかりはね」

 三人でわちゃわちゃしているよ。

「みんな、お茶はいかが」

 お母さんがお茶とせんべいを出した。

「いただきます」

「このせんべい、焼き加減が絶妙だわ」

「近くのお店のだよ」

「お宮様の家は、せんべい食べないんじゃない」

「ええ、実は、あんまり食べませんの」

「ええ!」

「本当!」

 私と花ちゃんは、びっくりしていた。

(おせんべいって、みんな食べまくっていると思っていたよ)

 つまり、庶民の味と言う事だろう。

「おいしい、煎茶と合う」

(お宮様が、下町の人間になって行く)

 それは、それで、おもしろいのかもしれないが。

「さて、それじゃあ、次は、どんなものを書こうか?」

「う~ん、考え中」

「私も」

「ゆっくり考えなさい、焦らないのが一番よ」

 お母さんがそう言って引っ込む。

「また、『ざしきわらし』熱のようなことが起こる一冊を書こうね」

「出来るかな~」

「やってみせるのよ」

 お宮様は、張り切っている。

「それじゃあ、がんばってみるよ」

「弱気ね」

「だって、前は、失敗続きだったから」

「次も、大丈夫よ」

 お宮様の根拠のない自信をため息ついてみていた。

(まあ、いいか)

 十兵衛姫は、これからも、続いていけると思っていた。

「私は、今は、十兵衛姫やっていて楽しいよ?」

 お宮様の一言で始まった執筆も今では、楽しい事となっていた。

(前の私より、なんだか輝いている感じがするな)

 心の中でそう思っていた。

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