③
そして、次の日、『ざしきわらし』と『闇のざしきわらし』は続き物ではありませんと書いて、家を出た。
「青ちゃ~ん」
花ちゃんが迎えに来た。
「『闇のざしきわらし』を書いた人ってわかったの?」
「うん、お父さん」
「わ、本家か」
「うん、そうだよ、だから、貸本屋も怪しまなかったみたい」
「そうだよね、知らない作家さんだったら、貸本屋の店主は、いいって言わなさそうだものね」
「早く気が付けばよかった。字はお父さんの物だったんだもの」
「意外と気が付かない物だよ」
「そうだね」
頷いて、寺子屋の入り口にいるお宮様にあいさつをした。
「おはようございます」
「おはよう」
「貸本屋の本は、どうなったのかしら?」
「あっ、『闇のざしきわらし』を書いたのは、青ちゃんのお父さんだったの」
「えっ? 本家」
「そうなんだ。何考えているんだか、お父さんは」
「十兵衛の本家なら、あの面白さも納得だわ」
お宮様も、お父さんのことは、認めているようだ。
「これにこりずに、次の話を考えろって事ね」
「そうだね」
「次は、何がいいかしら?」
「降ってくるみたいなことがないと、考えが浮かばないや」
「そういう物ね」
三人で寺子屋の中に入って行った。
☆ ● ☆
そして、放課後、私の家に集まった。
「十兵衛の本って興味深いものが多いよね」
お宮様は、本を取りそう言う。
「まあ、長く書いていたからね」
十兵衛の本は、全部で五十冊もあった。
(お父さんは、お母さんのためにこれだけの考えを本にしたんだ)
少しすごいと思った。
「一冊一冊がおもしろいよね」
「うん、そうね」
花ちゃんが返事した。
「私たちじゃ、まだまだ十兵衛には及ばないか」
花ちゃんがため息をついた。
「まあ、これだけ書いて下手だったら、それもかわいそうな気がするけれどもね……」
「確かに」
「私たちも、このくらい書けば、うまくなるって事よ」
「そうありたいね」
「そうだといいな」
「それは、分からないよね」
「こればかりはね」
三人でわちゃわちゃしているよ。
「みんな、お茶はいかが」
お母さんがお茶とせんべいを出した。
「いただきます」
「このせんべい、焼き加減が絶妙だわ」
「近くのお店のだよ」
「お宮様の家は、せんべい食べないんじゃない」
「ええ、実は、あんまり食べませんの」
「ええ!」
「本当!」
私と花ちゃんは、びっくりしていた。
(おせんべいって、みんな食べまくっていると思っていたよ)
つまり、庶民の味と言う事だろう。
「おいしい、煎茶と合う」
(お宮様が、下町の人間になって行く)
それは、それで、おもしろいのかもしれないが。
「さて、それじゃあ、次は、どんなものを書こうか?」
「う~ん、考え中」
「私も」
「ゆっくり考えなさい、焦らないのが一番よ」
お母さんがそう言って引っ込む。
「また、『ざしきわらし』熱のようなことが起こる一冊を書こうね」
「出来るかな~」
「やってみせるのよ」
お宮様は、張り切っている。
「それじゃあ、がんばってみるよ」
「弱気ね」
「だって、前は、失敗続きだったから」
「次も、大丈夫よ」
お宮様の根拠のない自信をため息ついてみていた。
(まあ、いいか)
十兵衛姫は、これからも、続いていけると思っていた。
「私は、今は、十兵衛姫やっていて楽しいよ?」
お宮様の一言で始まった執筆も今では、楽しい事となっていた。
(前の私より、なんだか輝いている感じがするな)
心の中でそう思っていた。
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