書きたい小説

「みんなが納得する、あっと驚く展開って何かな?」

「あっと驚く展開?」

「それがないと小説にならないから」

「そうよね、寺子屋であっと驚くね~難しいね」

「万年0点の人が、100点を取るまでの道とか?」

「それのどこに意外性があるの?」

「ないね」

 三人で沈んだ。

「あ~、ありきたりなのしか出てこない~」

「かえって悩むわね」

 花ちゃんとお宮様がう~う~うなっている。

「あの、寺子屋に妖怪が混ざっているとかはどうかな?」

 私は、小声でそう言った。

「それだ! あんまり聞かない話だもん!」

「意外性があるわ」

「やっぱり、青ちゃんは、感性が違うね」

「そうかな?」

「うん、普通思いつかないよ」

「でも、何の妖怪にするか? 決めていないんだ」

「人の生気をすう妖怪」

「子供を食べる妖怪」

 花ちゃんとお宮様が怖い話にしようとしてそう言う。

「なんで、妖怪は悪物じゃないといけないの?」

「えっ? だって妖怪だよ」

「私は、ざしきわらしとかがいいと思う」

「あの、家に幸福を運ぶざしきわらし?」

「うん」

「でも、ざしきわらしであっと驚く展開って、どんなのだろう?」

「えっと、隣の席の女の子は、実はざしきわらしでしたって言う最後にするんだよ、それなら、意外性が出ると思うの」

「最後でわかるのね、それまで、普通の人間と言う事にするのね」

「途中で、なんだか最近ついているなって主人公は思うの」

「ざしきわらしのせいで、運が良くなるのね!」

「ね、いい話でしょう」

「いいね」

「意外性がある」

「次は、大売れね」

 私は、胸が高鳴った。

(書きたい、書きたい)

 こんな衝動が起こったのは、初めてだった。

(お父さん、書きたいものが見つかると、ワクワクするんだね)

 心の中でそう思っていた。

(きっと、お父さんもこのワクワクに浮かされて、本を書いていたんだね)

 ドキドキと心臓がうるさい。

「青ちゃん、がんばろうね」

「うん」

「十兵衛姫がんばりましょう」

「「「おう」」」

 三人で手を合わせた。

「お宮、もう時間よ、お友達に帰ってもらいなさい」

「は~い」

「それじゃあ、また明日、寺子屋で」

「はい、さようなら」

「またね」

 足取り軽く家へ帰った。


  ☆ ● ☆


 その日の夕食で、お父さんと話をした。

「ついに書きたいものが見つかったの」

「そうか、よかったな」

「次は、いい作品が書けるような気がする」

「そうか」

 お父さんは、そう言って、漬物に箸を伸ばしている。

「責任感だけで書いたものは、ダメだっただろ」

「うん、いい気分じゃなかった」

「そうだろう、俺もそうだった」

「えっ?」

「昔、十兵衛も責任感だけで書いたお蔵入りの書があったんだよ」

「ええ~」

「だから、その時の俺にそっくりだった、青の考えている姿が……」

「そうだったの? だから、反対していたの?」

 お父さんには、見抜かれていたようだ。

「そうだ。それで、三冊目は、何を書く気だ?」

「寺子屋物語だよ」

「そうか、楽しみにしている」

 お父さんは、そう言ってみそ汁をすする。

「お母さんは、応援しているわよ」

「ありがとう」

 お母さんは、ご飯のお代わりを盛りながら笑っていた。

「ついに、青に書きたいものが見つかったのか……」

「売れるかは、分からないけど」

「青が思いつけたのは、私のアドバイスのおかげかしら?」

「そうだよ」

「まあ、本当? うれしいわ」

 お母さんは大喜びだ。


 そして、夜は、明日を楽しみにして眠った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る