書きたい小説
①
「みんなが納得する、あっと驚く展開って何かな?」
「あっと驚く展開?」
「それがないと小説にならないから」
「そうよね、寺子屋であっと驚くね~難しいね」
「万年0点の人が、100点を取るまでの道とか?」
「それのどこに意外性があるの?」
「ないね」
三人で沈んだ。
「あ~、ありきたりなのしか出てこない~」
「かえって悩むわね」
花ちゃんとお宮様がう~う~うなっている。
「あの、寺子屋に妖怪が混ざっているとかはどうかな?」
私は、小声でそう言った。
「それだ! あんまり聞かない話だもん!」
「意外性があるわ」
「やっぱり、青ちゃんは、感性が違うね」
「そうかな?」
「うん、普通思いつかないよ」
「でも、何の妖怪にするか? 決めていないんだ」
「人の生気をすう妖怪」
「子供を食べる妖怪」
花ちゃんとお宮様が怖い話にしようとしてそう言う。
「なんで、妖怪は悪物じゃないといけないの?」
「えっ? だって妖怪だよ」
「私は、ざしきわらしとかがいいと思う」
「あの、家に幸福を運ぶざしきわらし?」
「うん」
「でも、ざしきわらしであっと驚く展開って、どんなのだろう?」
「えっと、隣の席の女の子は、実はざしきわらしでしたって言う最後にするんだよ、それなら、意外性が出ると思うの」
「最後でわかるのね、それまで、普通の人間と言う事にするのね」
「途中で、なんだか最近ついているなって主人公は思うの」
「ざしきわらしのせいで、運が良くなるのね!」
「ね、いい話でしょう」
「いいね」
「意外性がある」
「次は、大売れね」
私は、胸が高鳴った。
(書きたい、書きたい)
こんな衝動が起こったのは、初めてだった。
(お父さん、書きたいものが見つかると、ワクワクするんだね)
心の中でそう思っていた。
(きっと、お父さんもこのワクワクに浮かされて、本を書いていたんだね)
ドキドキと心臓がうるさい。
「青ちゃん、がんばろうね」
「うん」
「十兵衛姫がんばりましょう」
「「「おう」」」
三人で手を合わせた。
「お宮、もう時間よ、お友達に帰ってもらいなさい」
「は~い」
「それじゃあ、また明日、寺子屋で」
「はい、さようなら」
「またね」
足取り軽く家へ帰った。
☆ ● ☆
その日の夕食で、お父さんと話をした。
「ついに書きたいものが見つかったの」
「そうか、よかったな」
「次は、いい作品が書けるような気がする」
「そうか」
お父さんは、そう言って、漬物に箸を伸ばしている。
「責任感だけで書いたものは、ダメだっただろ」
「うん、いい気分じゃなかった」
「そうだろう、俺もそうだった」
「えっ?」
「昔、十兵衛も責任感だけで書いたお蔵入りの書があったんだよ」
「ええ~」
「だから、その時の俺にそっくりだった、青の考えている姿が……」
「そうだったの? だから、反対していたの?」
お父さんには、見抜かれていたようだ。
「そうだ。それで、三冊目は、何を書く気だ?」
「寺子屋物語だよ」
「そうか、楽しみにしている」
お父さんは、そう言ってみそ汁をすする。
「お母さんは、応援しているわよ」
「ありがとう」
お母さんは、ご飯のお代わりを盛りながら笑っていた。
「ついに、青に書きたいものが見つかったのか……」
「売れるかは、分からないけど」
「青が思いつけたのは、私のアドバイスのおかげかしら?」
「そうだよ」
「まあ、本当? うれしいわ」
お母さんは大喜びだ。
そして、夜は、明日を楽しみにして眠った。
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