②
次の日、寺子屋に花ちゃんと行く。
「あれから、考えたんだけど、どんないいことが起こるかをさ」
「う~ん、そう言えば、考えてなかったね」
「そうでしょう、それで、富くじに当たると言うのはどう?」
「富くじって、お金や食べ物が当たる、あれ?」
「うん、いい事でしょう」
「そうだけど、何か違うな」
「ひねりがないって事?」
「うん、少しね」
(花ちゃんは、一所懸命考えてくれたのだ。お礼を言っておくべきか?)
少し考えていると。
「お宮様」
入り口でお宮様と会った。
「おはよう」
「「おはようございます」」
「二人共、さっそく、本の話をしていたのでしょう? 私も色々考えてきたのよ」
お宮様は、張り切ってそう言う。
「急にテストの点数が良くなるとかはどうかしら?」
「それも、何か違う気がする」
私は、何か突っかかった。
「青さん、何でダメなの? 充分おもしろいと思うのだけど、やっぱり、違うの?」
「ダメって言うか、驚きがない気がする」
「なるほど、驚きね」
お宮様は考え始める。
「とりあえず、教室へ行こう」
三人で歩いて行った。いつもの席に着き、教本を広げる。
(あっと驚く展開か~それって、かなり難しいよね、ありきたりなものではダメだしな~……)
授業も上の空だった。
☆ ● ☆
寺子屋の帰りに『十兵衛姫』は、私の家に集まる。
「青さんが納得のいく作品にしましょう」
お宮様は、そう言って、座っている。
「うん、いいと思う」
花ちゃんも頷く。
「それじゃあ、企画書と行こうか」
「うん」
「例えば、私たちのような子供でいい事って?」
「一文拾う」
「試験の山が当たる」
「風邪をひかないとか?」
「風邪?」
「青ちゃん、風邪をひかないとラッキーなの?」
「うん、だって、みんなに会えないし、寝ているのってつまらないし」
「そうだね~、嫌だね~」
「それなら、風邪が流行っている寺子屋で、五人位だけ風邪をひかないとかはどう?」
「なんで、一人だけじゃないの?」
「そっちの方が、現実的だから」
「まあ、そうだね」
全員で風邪をひくのは、おかしい気もする。
「他には?」
「う~ん、やっぱり、お金は拾いたい」
「そうよ、思い切って、一貫手に入れるのは?」
「それなら、お金持ちを助けると言うのはどう?」
「お礼のお金みたいなの?」
「うん」
「それなら、違和感もないね」
「なんだか、青ちゃんにばかり、話を考えさせちゃっているね」
「そんなことないよ、みんながくれるきっかけがないと、思いつかない物」
「私たちも役に立っているのよ、花さん」
「そうだよね」
花ちゃんは、小さく笑った。
(みんなの意見を否定してばかりではダメかな?)
十兵衛姫は三人なのだから。
少し落ち込んでいると、お宮様が。
「何、しょげているの、私たちの意見を一々通さなくても、青さんの意見の方がいいなら文句はないのだから」
お宮様は、気を使ったようにそう言った。
「でも……」
「青ちゃん、私も青ちゃんを悪いなんて、思わないよ、だから、妥協なんてしないで!」
「そうかな?」
「もちろんでしょう、妥協しておもしろくなくなったら、意味がない物」
お宮様が胸を張る。
「二人がそう言うのなら、ビシビシ行くよ」
「うん」
「はい」
二人は笑顔だ。
(気にしなくていいんだよね)
開き直り、また企画出しに戻る。
「そうね、ざしきわらしは、家に憑くのだから、野菜が実るとかはどうかな?」
花ちゃんがそう言った。
「そうだね、枯れかけていたものが実を付ける、まさに奇跡ね」
お宮様も頷く。
「それじゃあ、風邪をひかない、お金持ちを助ける、野菜が実るがいいことでいいわね」
「うん」
「いいと思う」
「いい話になりそう」
「そうだね」
私は、ワクワクしていた。
「それじゃあ、大まかな内容を書きますか」
「うん」
『ある時、引っ越してきた女の子が、隣の席に座った。慣れないだろうから、親切にするといいことが起こるようになった。一つ目は、風邪をひかない、二つ目は、お金をもらう、三つ目は野菜が実る、あまりにもいいことが起こるので、隣の席に子に言うと、『私のおかげだよ』と笑う。そして、寺子屋の人にその子の存在を聞くと、誰も覚えておらず、その日から姿を現さなくなった』
「こんなのでどう?」
「いいと思う」
「すごく物語って感じがするよ」
「最後、姿を消して、ざしきわらしだったんだって主人公がわかるところがいいと思う」
「うん、私もそう思う」
花ちゃんもお宮様も興奮している。
「確かに、私の出した案じゃ、いま一つ味気なかったね」
「青ちゃんの意見を使うとこんなにステキになるんだ」
「青さんは、やっぱり才能があったのでしょう」
「そうだね」
「そんなことは無いよ」
少しうれしくなってしまった。
「さあ、初稿と行きましょう」
「そうだね」
筆を持って文字を書いていく。
☆ ● ☆
数時間後、初稿が出来上がった。
「どれどれ」
お宮様が読む。
「ふむふむ」
(人に読んでもらう時ってドキドキする)
心の中でそう思っていた。
「うん、いいわね」
「本当?」
「もちろんよ、後は、花さんと挿絵を描きましょう」
「うん、今度は、私の番、みんなが手に取るいい絵を描くね」
花ちゃんは、そう言って筆を持つ。さっさと絵を描きだした。
「これがざしきわらしよ」
おかっぱで黒い髪をしていて、地味な着物を着ている。
「う~ん、これじゃあ、みんな、気になっちゃうんじゃないかな?」
「でも、視えないって設定だし」
「そうだよ、主人公にしか見えないんだよ、気を引く姿の方がいいよ」
「そうかな? まあ、このままで行こう」
「そして、主人公」
書き上げられた絵は、平凡な女子と言う感じだ。模様の無い黄色の着物。一つに結った髪、顔立ちは美人ではなく、一重でほっそりしている。
「いい感じだね」
「そうでしょう」
「楓の時は、美人だったから、花ちゃんが、こんな風に書けるって知らなかった」
「楓は、美人と言う設定だったでしょう、だから、花ちゃんは、美人に盛っていたのよ」
「まあ、そう言う事よ」
「そうだったわね」
三人でてんやわんやしていたら、あっという間に夜になっていた。
「うそっ、もうこんな時間」
夕日も隠れてしまっている。
「親に怒られる」
花ちゃんが、震えている。
「みんな、終わったかしら」
お母さんの声がした。
「うん、でも、こんな時間になっちゃってる」
「いいのよ、二人共、今日はうちに泊まるのだからね」
「えっ?」
「お宮様の家にも、花ちゃんの家にも、勉強会をするからって言っておいたわ」
「本当ですか?」
「ええ、まさか、あんなに一生懸命本を作っているのに、止められないわよ」
「えっ……、じゃあ、まだ作れるって事」
「そうだね」
「よし、やるわよ」
「みんな、楽しそうね」
お母さんは、笑顔でそう言う。
「うん、楽しいよ」
二ッと笑った。
☆ ● ☆
そして、数時間後。
「三人で寝るわよ」
「うん」
「布団が薄い」
お宮様がそう言う。
「せんべい布団になれておかないと、庶民の気持ちが分かりませんよ」
「それは、恥ずかしいわ」
「それなら、おとなしく眠って下さい」
「でも、なんか、ワクワクして眠れないよね」
花ちゃんがそう言う。
「うん」
「実は、私も」
「ええい、枕攻撃」
「うわっ、やったな」
しばらく枕投げをした。ところが。
「みんな~、眠った~?」
お母さんのこの一言で静かになったのだった。
「いい加減寝よう」
「そうね、もう遅いし」
「後は、明日、本は、紐を通して、間違いがないか確かめて、置いてもらおう」
「うん」
「楽しみ~」
三人でワクワクしていた。
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