⑥
次の日、寺子屋に行く準備をする。
「青ちゃん」
花ちゃんが迎えに来た。今日は、花ちゃんのかんざしは、菜の花だ。いつか構図を描いていたものが作られたのだろう。
「今、行くね」
階段を下りて行くと、花ちゃんが心配そうにしていた。
「青ちゃん、大丈夫? 昨夜は寝れた?」
「もちろん」
私は、明るく返事した。
「よかった。大丈夫そうだね」
花ちゃんが安心した様子でそう言う。
☆ ● ☆
寺子屋に着くと、お宮様を探した。
「今日、お宮様はいないの?」
「来ないみたい」
「えっ……」
そして、寺子屋の授業が半分終わる時までに、お宮様は、来なかったので、結局休みと言う事になった。
(私があんなことを言ったせいかな? それなら、私が悪いよね? 謝らなければいけないかな?)
「青さん、青さん、次の文を呼んでくれませんか?」
「えっと、はい」
先生の声にはっとした。
(いけない、今は、授業中だ)
そして、お昼の時間に花ちゃんと向かい合って昼ごはんを食べる。
「花ちゃん、卵焼きいいな~」
「青ちゃんのおにぎりもおいしそうよ」
「毎日おにぎりって、芸がないよね」
「まあね」
くすくすと花ちゃんが笑う。
「それで、青ちゃん、お宮様をどうしようか?」
「う~ん、家に行ってみる?」
「う~ん、そうするか……あんまり行きたくないけどね」
花ちゃんも、うなってそう言う。
「お宮様、あれで、傷つきやすいからね」
「布団の中で意地張ってそう」
「私もそう思うよ」
花ちゃんと笑い合った。
☆ ● ☆
そして、お宮様の家へ向かった。
「相変わらず広い」
瓦屋根の塀がどこまでも続いているかのごとくに見えている。
「門番さん、お宮様へお見舞いに来ました」
「あなたたちは、この前のご学友様」
「はい、学友です」
「中へどうぞ」
あっさり通されて、お宮様の部屋へ、立派な庭を抜けて行った。咲いている花が、微妙に変わっているので、庭師さんがまた仕事をしたのだと思った。
(お金持ちの家は、花も買い放題なんだな)
「お宮様~来たよ~」
「その声は、花さんか、入っていいわよ」
中に入ると、お宮様は、布団を被っていじけていた。
(やっぱり)
「お宮様」
「なんだ、青さんも一緒だったのですか」
布団から声がする。
「あのね、やっぱり、十兵衛姫は、休止しないことにします」
「本当に!」
がばっと布団から出てきた。
「はい、だって、私たち負けて下がったんじゃ負け犬ですよね?」
「そうよ、だから、勝つまでやるのよ」
お宮様は、力強くそう言った。
「勝つまで何年かかってもやりますか?」
「ええ」
お宮様は、開き直ったようにそう言う。
「ところで、休止じゃないって事は、三冊目を書くのかしら?」
「ええ」
「それで、内容は?」
「寺子屋物語です」
「「!」」
花ちゃんとお宮様は驚いている。
「だって、読者は、大人でしょう」
「だから、あえてです。お母さんが言っていました。貸本屋の中には、寺子屋物語は、よくあるのだと、大人の読者も昔は子供だったのだから、昔の事を思い出して、盛り上がったりするみたいだよ」
「そうなの?」
「そうかしら?」
お宮様が頭を使っているが。
「今まで、私は、寺子屋物語の本に出会っていないわ」
「お宮様は、かわいい系の本しか読んでいないじゃないですか」
「……そうね」
お宮様の目が泳ぐ。
「それより、寺子屋物語でいいのなら、私たちらしい作品が書けるわね」
「そうよ、がんばりましょう」
「そこで、一つ問題があってね」
「何?」
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