④
次の日、寺子屋に向かう時。
「青ちゃん」
花ちゃんが迎えに来てくれたのだ。
「花ちゃん、おはよう」
「うん、おはよう、昨日はうれしかったね。初めて本を借りる人を見たわ」
「うん、そうだね」
花ちゃんは、自分の本を借りられるのが、初めてなので、うれしそうだった。
(ごめんね)
心のトゲは、大きくなっていく。
☆ ● ☆
寺子屋に着くと、お宮様が楽しそうにしていた。
「やったわね、私たち」
「うん」
「……」
「青さん、暗い顔をして、どうしたの?」
「いいえ、なんでも」
ごまかした。
(どうせ、客が来たら、全部わかることなんだ)
自分から、言おうとは思えなかった。
☆ ● ☆
そして、放課後客を待っていた。
「あのね、みんな、貸本は、一週間借りられるから、すぐに客は来ないのよ」
お母さんがそう言う。
「でも、今日来るかもしれない」
「待ちたいんです」
二人は、強情だった。
「そう」
お母さんは、強く止めなかった。だが、私は、「つまらない」と返却に来る客に会うのが怖かった。
(お金を払ってあれじゃあ、怒るよね、怒られたくないな……)
ドキドキしていた。
結局、その日は、返却しに来る人は、現れなかった。
「来なかったね」
「うん」
「また明日」
「ばいばい」
手を振る姿に、また、心が痛む。
(ごめんね、ごめんね)
わ~と叫び出したかった。
(悪いのは、私だ)
一人で追い詰められていた。
例え罵倒されても、今日客が来ていればすっきりしていたかもしれない。そう思うと、辛い気がした。
(客に言わせるなんて、ずるいかな?)
少しそう思い焦った。
(そもそも、文句を言うような人じゃないかもしれない)
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「青、青」
おかあさんの声がする。
「悩んでいるんでしょう」
「うん」
「下手な作品を見せるのは、悪い事?」
「うん」
「それは、書いた人の考えだよね、借りた人が、全員喜ぶ作品なんて、ないのよ、青の作品は、確かにまだまだだけど、周りの本も、まだまだなところがないわけじゃないの、だから、あんまり気にしなくていいのよ」
「……そうなの?」
「小説家に、一人前と言うのは、ほとんどないと思うわ、あっちだって、そこまで期待して借りているとは限らないんじゃないかな?」
「そうなんだ……じゃあ、悪いことをしているわけじゃないのかな?」
「青は、悪くないよ、みんなのためにやった事だもの、それに、未熟な作品を並べてはいけない法はない物」
「……そうだよね、でも、お金払わせちゃったしな~」
「相手が、選んだものだし、責任は、青にはないわ」
「うん、でも、謝りたい」
「わかったわ、そうしてもいいわよ」
「本当」
「青がいない時に来たら、謝っておくから」
「ありがとう」
「青は、真面目だね」
「そうかもね」
少し謝ることで楽になれるような気持ちがしていた。
(明日は、来てくれるといいな)
そう思い、明日を待った。
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