②
次の日、寺子屋終わりに、三人で私の家に向かった。
「表紙出来ました」
表紙と言っても、絵が入っているわけではなく、厚紙で、『呪われた屋敷のおばけ騒動』と書いてあるのだ。
「いいね」
「かっこいい」
表紙は、絵で決める物ではなく、題名の宣伝用なのである。
「ついに私たちの本が出来上がるのね」
「それなら、青さん、全部の下書きは、終わった?」
「うん、終わらせたよ」
「それなら、少しずつ直していきましょう」
「うん」
パラパラと、お宮様が読む、こういう時は、ドキドキしてしまう。
(自分が書いたものを読まれるのって恥ずかしい)
「いいんじゃない」
お宮様がいいと言った。
「でも、もう少しおどろおどろした表現が欲しいわ」
「だって、こわいんだもん」
私は、縮こまってしまった。
「それは、こっちで直すわ」
お宮様が、筆を入れて行く。
「この表現は、変えた方がいいわ」
さっさと変わっていく内容。
「できたわ」
「どれどれ?」
今度は、花ちゃんと読む。
「だいぶ読みやすくなったね」
「お宮様すごい」
「いえいえ」
お宮様は、うれしそうだ。
「さて、それでは、本書と行きますか」
「おう」
そう言って、上等な墨で書いて行こうとした。
「待って、絵も見てからにして」
「そうね」
花ちゃんの描いた絵はとても恐ろしかった。
「どう」
「怖い」
「いいと思うよ」
「お宮様もまた、おもらししちゃうでしょう」
花ちゃんは、笑いながらそう言った。
「ところで、この中で、一番字がうまいのは誰かな?」
「お宮様だよ」
「それは、そうよ、書道教室に通っているもの、うまいに決まっているじゃない、それとも、二人共自信があったりするの?」
「自信なんてないから、それじゃあ、お宮様に決定だね」
「ええ」
そう言って、お宮様が、字を本書に書きだした。花ちゃんと二人で、じっと見守っていた。
五枚で一回休憩を入れた。
「青さんの才能が本当にすごいわ」
「そうかな」
「とても、おもしろいわ」
「そうかな?」
「そうだよ、青ちゃん、とても、おもしろいよ」
「本当に、そうかな?」
私は、そんなにおもしろいと思っていなかった。
(怖いだけじゃんか)
心の中でそう思っていた。
☆ ● ☆
そして、三十枚を書き上げた。
「よし、出来上がり」
「後は、紐を通して、本にするだけ」
「絵を貼るのも忘れないで」
「そうね」
まず、絵を貼って行く。
「すごい、私たちの本だ」
次に、本を紐でしばって行く。
「穴をあけて、紐を通すの」
「表紙も忘れずに」
「はい」
そして、一冊の本が出来上がった。
「最後に、『十兵衛』の筆名を書くんだよ」
「『十兵衛』っと」
筆で書いて、出来上がった。
「これ、めちゃくちゃ売れるよ」
「楽しみね」
三人で興奮していた。
「待って、本物の十兵衛さんに許可を取らなきゃ」
「そうだね」
正直、ドキドキだった。
☆ ● ☆
お父さんに本を見せると。
「ああ……」
少しため息をついて。
「しょうがない、一度置いてみるがいい」
「ちなみに出来は、何点ぐらいですか? いい出来ですか?」
「それは、客に聞け」
お父さんは、ニコリともしなかった。
「何、あの態度は! もっときちんと話してもいいと思わない?」
「一応、置いてもらえるんだからいいじゃないの」
お宮様をなだめていると、帰る時間になった。
「明日は、日曜だし、貸本屋に並んだ本をみれるわね」
「そうだね」
「ドキドキだね」
三人で興奮していた。
☆ ● ☆
その夜、お父さんとお母さんが話しているのを聞いてしまった。
「青の作った本は、まだ、金のもらえる位の本じゃないな」
「それなら、何で置くと言ったの?」
「売れない時を知って欲しかったんだ」
「そう、それは、貸本屋を継ぐために知る必要があるものね、売れない作家の気持ちが分からないと、うまくやっていけないものね」
「俺だって、初めに出した本は、全く借りられず、悔しくて書いていたら、人気者だ。青が売れない作家の気持ちを知るのは、大事だと思うぞ」
「そう、少し残酷かもしれないわね」
「まあな」
その会話を聞いて恥ずかしくなった。
(私たちの作った物は、まだまだなの……それなのに、並べるって、誰かに読まれることだよね、恥ずかしい)
自分では、しっかりできたと思っていた。
お宮様も花ちゃんも楽しみにしているし、止める事は出来ない。
(どうしよう)
手が汗でびっしょりになった。
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