本を完成させよう
①
数時間後して、授業が終わった。休み時間に三人で集まった。
「さあ、十兵衛姫の話し合いをしましょうか」
「お宮様、その話は、端っこで」
「あの、いつまで完成させればいいの?」
「あと五日後ぐらいまでには、完成させたいわね」
「ええ~、五日で書くの!」
「し~、青ちゃん」
花ちゃんに、声を小さくするように叱られてしまった。
「ごめん」
「今回は、三十枚くらいの短編にするから、五日で大丈夫よ」
「さ、三十枚って、充分長いよ」
「そうかしら?」
お宮様は、普通でしょうと顔で言っていた。
「私は、素人なんだよ、いきなりそんなにたくさん書けないよ」
「そうかしら? やってみれば簡単よ、今日、さっそく、やってみましょう」
お宮様の笑顔に騙された気がしたが、次の授業が始まる。
「さあさあ、席について、次は、そろばんを使うよ」
「「は~い」」
みんな棚の方へ取りに行く。
「では、三九七文なり、三九八文なり……」
先生が問題を読んでいくので、そろばんをぱちぱちはじいた。
(難しい)
微妙な数字だけにやりづらいのだ。
「さて、出来ましたか?」
「「はい」」
全員で、答え合わせをして行く。
「花さんは、一個はじき忘れていますね」
「うそ~」
男の子にそう指摘されて、花ちゃんがため息をついている。
「青、お前、はじきすぎだ」
ぶきっちょにそう言う目の前の男の子。
(花ちゃんのお隣の男の子は、大人だな、ちゃんと花さんって呼んでいるし)
「おい、聞いてんのか?」
「はいはい」
「みんな、間違いが分かったかな?」
「「は~い」」
「それは、よかった。では、今日の授業は、終わりですよ」
今日の先生は、ニコニコしている先生だった。
☆ ● ☆
そして、私の家に集まった『十兵衛姫』は私の部屋で本を作っているのだが。
「では、企画書通りに書いていきましょう」
「まず、血だらけの女の人が出てくるところね」
「『呪ってやる~』とか書いたら」
「いいね」
花ちゃんと盛り上がっていると。
「しっかり書いてください」
お宮様に叱られた。
「それじゃあ、あらすじにとりかかりましょう」
「「は~い」」
『ある日、男の前に血だらけのおばけが現れました。それは、恨みを持っている霊で、男の家の元使用人でした。男は逃げ切り、家に着くと、そのほかにも霊がいました。それは、血だらけのおばけの妹でした。妹は死んではいないが生霊として出てきたのです。そして、妹と男があった時、妹が魂を吸い上げてしまい、男は死ぬ』
「これでいいわね」
「うん」
「三十枚ならこんな物よ」
お宮様が笑いながらそう言う。
「さあ、書くぞ」
「おばけに出会い、驚いて、刀を振り上げるのは、どうかな?」
「いいね」
「それで、切れなくて、刀を置いて逃げ出すんだ」
「青さん、それ、すごくいいわ」
お宮様が喜んでいる。
「それじゃあ、そこの挿絵は、腰の抜けている男の絵は、どうかしら?」
花ちゃんが筆を振るう。
「すごくいいわ、でも、配置を考えましょう」
「そうだね」
「あらかじめ、三十枚にどのくらい絵を入れるか決めておいた方がよさそうね」
「そうだね」
枚数との割を考えようとするが。
「ここで見切れちゃう」
「字を小さくしましょう」
「それか、文を変えるかだね」
まずは、最初の五枚が完成した。
「なんとか、この調子ならうまくいきそうね」
お宮様は、安心したようにそう言った。
「あの、表紙を描くのに、題名を決めましょう」
「う~ん、題名ね~」
「『呪われた屋敷のおばけ騒動』とかどう?」
「『血だらけおばけの復讐』とかは?」
私と花ちゃんが、次々と題名を言って行った。
「なんかピンとこないな~」
お宮様がそう言う。
「『おばけに殺された男』と言うのはどう?」
「それじゃあ、本筋がばれちゃうよ」
私は、ついつい口出ししてしまった。
「じゃあ、『呪われた屋敷のおばけ騒動』でいいわ」
「本当! 適当に言ったのに、いいの」
「ええ、いいわよ」
お宮様は、少し怒っている。
「でも、この中で一番よさそうだと思うよ」
花ちゃんもそう言う。
「そうね、よく考えるとそうだわ」
お宮様もあきらめたようだ。
「それじゃあ、明日、表紙を持って行くね」
「うん、よろしく」
手を振って花ちゃんを家へ送り出した。
「私も帰ります」
お宮様が頭を下げていなくなった。
☆ ● ☆
その夜、やはり、眠れなくなっていた。
(怖いよ~)
ガタガタ震えていた。
ガシャンと音がして、風が家に当たり、家の外に置いてある物がコロコロ転がる音がする。
「お母さ~ん、やっぱり、今日も眠れないよ~」
「はいはい、風の音で眠れないのね」
優しく頭をなでてくれた。
「うん、そばにいて」
「もちろん」
そうして、ぐっすり眠ったのだった。
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