⑤
家の中に入ると、お母さんが本を貸し出していた。
「愛猫物語、入ったんだ」
「そうよ、さっそく借りていく人がいたわ、本当に人気作よね」
「やっぱり、しょうゆ団子先生ってすごいよね」
「そうね」
(あっ、そう言えば、私も読みたかったんだ)
「あの、愛猫物語、私も読みたいと思っていたんだけれど、読んでもいい?」
「いいわよ、さっきの人が返しに来たらだけどね」
「うん」
楽しみに待つことにした。
(でも、夢娘物語や愛猫物語って、なんだか、かわいらしい内容だよね)
お宮様が好きな本は、かわいい系なのだろう。
(夢娘は、夢で運命の人と出会い夢の中で恋をするお話、愛猫物語は、猫をかわいがり過ぎる男の人が旅をする話だったけな?)
思い出して、少し笑いたくなった。
(やっぱり、怖い話は好きじゃないんだな)
お宮様の事が近くに感じて、うれしくなったのだった。
☆ ● ☆
その日の夜は、怖い事を考えずに眠った。見た夢は、たらふく桃山堂の豆大福を、三人で平らげる夢だった。
「う~ん、いつまでも寝ていたい」
そう思うほど幸せだった。
「あお、青、青」
「う~ん」
「朝だよ、今日は、ぐっすり眠っていたわね」
「うん、いい夢を見たよ」
「よかったわね、それより、寺子屋の授業が始まっちゃうよ」
「えっ! 寝坊したって事? お母さん、もっと一生懸命に起こしてよ~」
急いで、支度をしていた。
「着物よし、髪形よし」
「青ちゃん」
花ちゃんが来た。今日のかんざしは、白詰草のかんざしだった。緑色の葉っぱと白い花の調和がうまく取れていた。
「は~い」
ぱたぱたと急いでかばんをかけて、出て行く。
「さては、青ちゃん、寝坊したな」
花ちゃんが笑ってそう言う。
「うん」
「あっ、寝ぐせが後ろの所についているよ」
「えっ! 直して~」
「はいはい」
花ちゃんが、かばんからくしを取り出して、さっさととかしてくれので、寝ぐせは直ったようだ。
「ありがとう」
「いえいえ」
「本当に助かったよ~」
「そう、さあ行こう」
二人で鼻歌を歌いながら出かけて行った。
☆ ● ☆
寺子屋に着くと、お宮様がいた。
「おはよう」
「おはようございます」
「お宮様に友達ができるなんてね~」
小声でそう言っている人がいた。
「そこの人、うらやましいんでしょう? 違う?」
私はついそう聞いてしまった。
「ち、違うよ」
「うらやましくたって、お宮様の友達は、私たちだけなのよ」
「何で? 別に、他に友達を作ったっていいんじゃないの?」
「私たちには、厚い友情があるからね」
「そ、そうなの?」
小声で言った女の子は去っていった。
「いいの、あんなこと言って」
「うん」
私は、平然としていた。
「青さん、ありがとう」
お宮様は、とてもうれしそうだった。
(そう言えば、お宮様って友達欲しかったんだよね?)
だから、言われてうれしかったのだと思った。
(素直なのかも)
お宮様の顔を見ると、そう思えてくるのだった。
「さて、席に着きますか」
今日も授業が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます