十兵衛姫がそろう
①
「青さん」
すぐにお宮様が声をかけてくる。
「はい」
「今日の企画は考えている?」
「ううっ、まだ」
「しっかりして」
お宮様が怒っていると、花ちゃんが、絵を描きだした。水墨画で、おどろおどろしたおばけを描いてくれた。
「おお、うまい」
少し浮世絵っぽい絵で、女の人が怖く書かれている。
「こういう話を書いているんでしょう」
「そうそう」
花ちゃんは、ニコッと笑った。そして、ささっと筆を動かして。
「もしかして、こんなのだった?」
今度は、かわいらしいこどものおばけを書いたのだった。
「う~ん、そんなにかわいくないかな」
「そう?」
花ちゃんは笑いながらそう言った。
「そう言えば、絵師を探していたのよ」
「えっ、絵師って、本の挿絵を描く人?」
「うん」
「でも、私がやるのはちょっと」
花ちゃんは困っている。
「もったいないわよ、こんなにうまいのに」
お宮様もそう言う、私もそう思っていたから、頷いた。
「絵を描くのは好きなの、でも、お金を取るほどの絵じゃないと思うのだけど、それでも、描けって言うの?」
「でも、私たちの知り合いで、こんなにうまく描ける人はいないよ」
「そうかな?」
花ちゃんは、うれしそうだ。まんざらでもないようだ。
「でも、私には、かんざしの構図を考えるっていう仕事があるし、二つも出来るかな? なんて、心配があるわ」
「そうね、そちらも大事ね」
お宮様も頷く。
「でも、副業を持ってもいいと思うの」
お宮様はこりなかった。
「副業?」
「二つの仕事をする事よ」
「仕事って、私のかんざしの構図書きは趣味よ、それに、まだ、私たち十二才なのよ、まともに働いてもいい事なんてないわ……」
「ここだけの話なんだけども、私たちは、大人のふりをして、本を出すことになっています」
私は、そう言ってしまった。
「えっ? どういうこと?」
「さすがに、十二才で、一人前の作家なんて名乗れないもの、お父さんが名前をくれるって言っているんだ。お父さんの筆名は十兵衛って言うんだ」
「そうか、十二才じゃ商業は厳しい物ね」
(お父さんは、そう言う理由で、十兵衛をくれようとしたのかな?)
ふと、そう思った。
(役に立つとは、このことなのだろうか?)
少し考えてみると、そうかもしれない。
「花ちゃん、商売としては、問題ないから、仕事だと思って絵を描いてくれないかな?」
「……考えてみる」
花ちゃんは、消極的にそう言った。
(何か嫌な理由があるのだろうか?)
花ちゃんを見て、少し考えた。
「青さん、帰りましょう」
「えっ、もう、そんな時間」
「そうよ、私たちは、まだ、企画段階なのだからね、まだまだ、がんばるのよ」
「は~い」
お宮様が張り切る中、花ちゃんは、走っていなくなった。
(お宮様は、横暴すぎだよ、花ちゃんにまで、迷惑をかけられないよ)
心の中でそう思っていた。
「青さん、しっかり企画出してくださいね」
「はい」
お宮様は、相変わらず、ごうまんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます