③
そして、次の日になり、寺子屋に行く時間が来た。
「花ちゃん、おはよう」
「おはよう、青ちゃん、昨日は風が強かったね、私の家もガタガタ鳴っていたわ」
「うん、そうだね、私の家もそうだったよ」
(まさか一人で眠れなかったなんて言えない)
心の中でそう思っていると、お宮様がいた。
「おはよう」
「「おはようございます」」
「あれから、夜、怖い夢をみたの」
「なんだ。お宮様もか」
「人の形をしたおばけが、本物みたいで、青さんの言った通りだったから、とっても楽しかったわ」
(楽しかった?)
「あんなに鮮明に見れるなんて、中々ないわ、青さんの考えはすごいのね」
「えっと、私は、思ったことを言っただけだから、そんなに持ち上げても何も出ませんよ」
「そんなこと期待していないわよ、私は、もうすでに、あなたの小説を好きになりそうという事よ」
「ええ~」
お宮様は、急に不思議なことを言う。
「私のは、小説なんかじゃないよ」
「そうかしら?」
お宮様は、しつこく追いかけてくる。
(どうしよう、本当に書かせられる)
逃げていると、花ちゃんが笑いながら。
「二人共、仲がよさそうね」
そう言ったので、何だか恥ずかしくなって止まった。
「そうだ。お宮様! 友達には、なってあげるよ」
「そう、原稿も書いてくれると嬉しいのにな~、友達のお願いだもの、聞いてくれるわよね」
「え~と、それは……もう少し考えさせて」
私は、恥ずかしくなって、席に座った。
「それでは、授業を始めます」
先生が丁度よく入って来た。
(よかった)
ほっとしていると、お宮様から手紙が回って来た。
『書いてみるだけ、書いてみようよ 宮』
(う~ん)
『わかりました 青』
そう書いて回した。
☆ ● ☆
そして、放課後、お宮様と家に帰った。
「それでは、設定を決めましょう」
「はい、怖い話です」
「そう、出てくるのは、人の形をしたおばけですね」
「嫌だけど、そう」
「それでは、書きましょう」
「はい」
そう言って筆を持つ。
『雲の出る夜、一人の男が外を歩いていた。そこに見えたのは、血を流したおばけだった。肩に刀が刺さり、恨めしそうにこちらを見ている』
「こんな感じ?」
「唐突過ぎない、もう少し前振りを入れて」
「えっと」
『明かりが消えて静かになった夜。霧が出てきて、どこからともなく気持ちの悪い風が吹く』
「こう言うのは、どう?」
「いいわね、青さんは才能があるわ」
「そうかな?」
「それで、この後は?」
「まったく考えていないんだけど」
私は、正直にそう言った。
「これだけで本にしようと思ったの?」
「う~ん、そうでもないけど」
「本づくりの道は険しいのよ、がんばりましょう」
お宮様は、増々張り切っていた。
「はい」
泣く泣く頷いた。
「それじゃあ、章を作るのはどう?」
「章?」
「たとえば、一、おばけと会う。二、おばけに追いかけられる。みたいな物よ」
「それは、いいかも」
「まあ、それは、手伝うわ」
お宮様も筆を持った。
「まず、このおばけに何のうらみがあったか? だと思うわ」
「刀で刺された恨み」
「なぜ、刀で刺されたの?」
「そう言えば、分からないね」
二人で頭をひねっていた。
「そうよ、壺を割った罰よ」
「壺でそうなるの?」
「私の家では、壺を割ると、死ぬほどの罰を与えられるの」
「そうなの」
安物の壺しか見たことのない私に取って、それは、なんのことだかわからなかったのだが。
(お宮様が言うんだ。刺されるくらいの事なのね)
心の中でそう思い、三章に、壺を割ると書いた。
「少しは、小説っぽい感じが出たわね」
「そうかな?」
私は、少しもそう思わなかった。
(本当に、これでいいのかな?)
なぜだか、喜べないのだ。
「どうしたの? 青さん」
「いえ、何でもないです」
口では、そう言ったが、不安をぬぐい切れなかった。
「じゃあ、次は、この男がなぜおばけに会ったのかを決めましょう」
「そうだね」
(何か違う、何かが突っかかる)
心の中でそう思うのだった。
「そうね、この女の人の雇い主って言うのはどう?」
「雇い主ね、じゃあ、この刺された女の人は、使用人か」
「そうなるわね」
そう決めた途端、何かがほどけた気がした。
(そうか、矛盾が気になっていたのかな?)
そう思うと、納得がいく。
「なんだか、青さんと考えると、おもしろい話が出来そう」
お宮様は目を輝かせてそう言った。
「そうかな」
少しうれしかった。
その後も話し合って、半分まで内容が決まった。
「おもしろいよ、これ」
「うん、早く書きたい」
「完成したら、花ちゃんに見せよう」
「そうしたら」
お宮様も賛成してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます