②
やがて、貸本屋に人が来た。
「花道先生の新作はあるか?」
「ありますよ」
お母さんがそう言って棚に案内する。そして、本を一冊抜き出して、手渡したのだった。
「そうそう、これこれ」
喜んで手に取って男の人は、会計を済ませるといなくなった。
「喜んでもらえたね」
お母さんにそう言うと。
「うん、だって、花道先生の新作は、飛び切りおもしろいのよ」
お母さんはうれしそうだった。
「私は、本が好きなのかな?」
「そうね、あんまり、気にしなくてもいいんじゃないかしら、別に嫌いでも、かまわないわよ」
「なんで?」
「好きか嫌いかなんて、誰かが決める物じゃないし、自分の考えは、自分で持ってこそなのよ」
(自分で考えろと言う事か?)
そうなると、私は、本が嫌いなのか?
いいや、嫌いじゃないな、かといって好きなのかと言われると、わからないな……。
考え込んでしまっていた。
「でも、青は、たぶん本が好きよ」
お母さんは、そう言って笑う。
「何で?」
「小さなころ、一生懸命字を覚えて本を読もうとしていたじゃない」
「それは、私の家が貸本屋で、たくさん本があったからだよ」
「でも、本当に嫌いだったら、たくさんあっても読まないでしょう」
「そうなのかな?」
たくさんの考えが頭の中に入り込んで、止めてくれない。
(私は、一体何を悩んでいるんだろう? 本が好きか嫌いかだろうか?)
考えがまとまらない。
「そう言えば、順調にお宮様と小説は書けている?」
「まだ、企画段階で止まっているよ」
「そう、でも、お宮様は、期待しているみたいだったわ」
「うん、そうだろうね、私が貸本屋の娘だからでしょうけど」
「それは、違うわ、青だから一緒に書きたいのよ」
「? どういうこと?」
「お宮様は、青と友達になりたいのよ」
「えっ、そうなの」
「うん、みていればわかるわ」
お母さんがニコニコしてそう言う。
「友達か……」
(お宮様は、いつも一人でいるから、一人が好きなのだと思っていた)
案外寂しがり屋とかなのかも。
そう思うとかわいく見える。
(いつも、怒っている様で、寂しいんだな)
少し、顔が緩んだ。
(友達にはなってもいいかな)
ふとそう思えた。
そして、夜になる。風の音で目を覚ましたが、まだ夜中だった。
(どうしよう、厠(かわや)に行きたくなった)
今日していた、おばけの話のせいで、怖くなった。
(どうしよう)
焦っていると。
「お母さん」
近くでお母さんが寝ていたので、付いてきてもらった。
「十二才になっても、怖い物は怖いのね」
お母さんは、笑っていた。
(お宮様のせいだもん)
心の中でイライラしていた。
厠から出てくると、真っ暗だった。
「どうしたの?」
お母さんの持つろうそくが見えなかった。
「ろうそくの火を消さないでね」
「ついているわよ」
そう言って、お母さんが、ろうそくを目の前に出してくれた。だから。ろうそくの光に、焦点を集めて、部屋を出て行った。
「今日は、一緒に寝ようか」
お母さんがそう言ってくれたので、一緒に寝た。
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