そして、帰りに花ちゃんと帰る時。

「お宮様ってかっこいいよね」

「うん」

 二人ではしゃいでいた。

「愛猫物語を読みたくなったね」

「うん、あんなにお宮様が一生懸命に読むんだよ、おもしろいに決まっているよ」

「青ちゃん家が、貸本権を手に入れたら、借りに行くね」

「うん、ぜひに」

 そんな会話をして家に戻ろうとしていた時。

「桃山堂の豆大福だよ~、売り切れまで、あと十個だよ~、桃山堂の豆大福だよ~買っていきな~おいしいよ」

「うそっ、まだ売れ残っていたの?」

 花ちゃんの顔色が変わった。

「でも、買えないよ、一個で三文もするんだよ」

「本当だ。高い」

 値段的に言うと、私たち、十二才位の子供にとっては、一か月のお小遣いのほとんどを使ってしまう位だ。

 そこに、お宮様が現れて。

「全部下さい」

「「全部~!」」

 二人で大声を出してしまった。

「あら、学友の、青さんと花さん」

「「はい」」

「もしかして、食べたいのかしら?」

「はい」

「それなら、どうぞ」

 何のためらいも無く豆大福を渡してくれた。一口食べると。

「モチモチして甘い」

「うん、おいしい」

 甘い味とモチモチの外側が、絶妙な味を出していて感動していると。

「食べたわね」

 お宮様が目を光らせた。

「……何?」

「あなたは、確か貸本屋の娘よね? たまに、貸本屋でみるものね」

「はい、そうですけど……」

「もしよろしければ、私の書いた本を並べてくれない」

「ええ~」

 急な話に困ってしまった。

「えっと、そう言うのは、私が決められることではなくて、大人が決めることだから、無理なんです」

「やっぱり、そうよね、あなたの父上に相談するから、一緒に行くわよ」

 お宮様は、そう言ってついて来る。

(ギャー)

 心の中で困っていた。

(お父さん、どうにかして~)

「青ちゃん、なんだか大変そうだし、私は、買い物して帰るね」

 花ちゃんは、関わりたくないように、去っていった。

(見捨てないでよ~)

 心の中で、花ちゃんの肩をつかみたかった。


  ☆ ● ☆


 そして、家に着くと、貸本屋だけに、本がたくさん並んでいる。私の家は、木で出来た小さな家だ。部屋も一階に2つ、二階に1つ、二階が青の部屋だ。

「あら、お宮様」

「はい、お宮です」

「今日は、どうしたのかしら?」

 お母さんが、ゆっくり話をしている。

「あの、ですね、本を並べてもらおうと思いまして」

「何のですか? 愛猫物語の貸本権は、まだ手に入っていないのですが、なにか、読みたい本でもあったのですか?」

「いいえ、私の書いた本を並べてください」

 そう言うと、帳簿を書いていたお父さんが。

「お嬢様、お金で解決できると思っているようだが、貸本屋だって信頼商売なんだ。つまらない本は置けないよ」

「つまらないですって、読んでもいないのに、決めつける気ですか?」

「わかるよ、君はね、才能がない口だ」

「なっ!」

 お宮様は怒っている。

「もっと、修行しておいで」

「でも、青さんは、桃山堂の豆大福を食べました」

「そのお金を返せば納得してくれるか? それとも、俺を脅して置いてもらって満足なのか?」

「いいえ」

 お宮様が、店からかけて行った。

「青、今、お宮様の書いた本読んでいるが、お宮様の書いた小説は、形は出来ているんだけれども、つつましすぎるな」

「えっ?」

「青、追いかけて言ってやれ、金取れる作品書いたら置いてやるって」

「うん」

 私は、走ってお宮様を追いかけた。

「お宮様~」

 探すが、なかなか見つからない。

「どこです、お宮様~」

 人ごみの中で泣いている女の子がいた。

「お宮様」

「何? 笑いに来たの?」

 イライラした顔でそう言う。

「お父さんが言っていたんだけど、お宮様の作品は、つつましやかなんだって」

「えっ?」

「たぶん、あっと驚く展開とかが必要なのかな?」

「あっと驚く」

 お宮様は気が付いたように。

「そう言えば、あまり起伏の無い話だったかもしれない」

「それでね、お金を払いたくなるほどの本を書いたら置いてくれるって」

「そう、それなら、青さん、協力しなさい」

「えっ? 何を?」

「あなたが、小説を書くのよ」

「ええ~!」

「私が、全面協力してあげるから」

「無理です」

「大丈夫、あなたは、貸本屋の娘よ、本は読んでいるはず」

「でも、お宮様みたいにたくさん読んでいるわけではありませんし、読むのと書くのでは全く違うと思います」

「そうね、だからこそあなたなの」

「???」

 ?模様を飛ばしていると。

「あなたには、才能の匂いがするのよ」

「へ?」

「あなたはおもしろい話を書く気がするわ」

「ええ~!」

 驚いていると。

「どうしたの?」

「ちょっと、話をしていただけ、考えてみてね」

「お宮様!」

 名前を呼ぶが無視される。そこに丁度良く花ちゃんが歩いてきた。

「どうしたの? 青ちゃん」

「小説書くことになっちゃった」

「え~! どういうこと?」

 花ちゃんも驚いているようだ。

「お宮様が全面協力してくれるって言うんだけど、本を書いて貸本屋に置くんだって」

「それって、考えようによってはすごいいい事だよね」

「えっ!」

 言われてみれば、稼げるのだからいい事だ。

「やってみようかな」

「うん、その意気だよ」

 花ちゃんに背中を押されて、やってみることにした。


  ☆ ● ☆


 家に帰って。

「お父さん、私に小説の書き方を教えて」

「小説の書き方だと、そんな物カンで大丈夫だ」

「はあ?」

「書きたいものを書けばいいんだよ、最初は、技術より、楽しく書くことだ」

「う~ん、書きたいものね~」

「なんだ、貸本屋で本を出すのか? 青が?」

「うん、そのつもり」

「そうか、その時は、『十兵衛』って名前やるよ」

「えっ?」

「世代交代だよ、十兵衛も」

「やだ、青だから、群青娘とかがいい」

「いつか、十兵衛のありがたみが分かるよ」

「本当?」

 お父さんは、楽しそうに笑っている。


  ☆ ● ☆


 その夜、お母さんと寝ていると。

「青、貸本屋に本を出すんだって」

「うん」

「そんなに甘くないよ」

 お母さんは、いつも優しいのに、きつい声で言った。

「そうだよね、甘くないよね」

「ええ、とっても厳しい世界なのよ」

「お母さん、私はまだ、書きたいものも見つからないんだ」

「そう、それなら、まだ、大丈夫ね」

 お母さんは悲しそうだった。

(貸本屋に本をだすって、そんなにダメなことなのかな?)

 その夜は、なかなか寝つけなかった。

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