②
そして、帰りに花ちゃんと帰る時。
「お宮様ってかっこいいよね」
「うん」
二人ではしゃいでいた。
「愛猫物語を読みたくなったね」
「うん、あんなにお宮様が一生懸命に読むんだよ、おもしろいに決まっているよ」
「青ちゃん家が、貸本権を手に入れたら、借りに行くね」
「うん、ぜひに」
そんな会話をして家に戻ろうとしていた時。
「桃山堂の豆大福だよ~、売り切れまで、あと十個だよ~、桃山堂の豆大福だよ~買っていきな~おいしいよ」
「うそっ、まだ売れ残っていたの?」
花ちゃんの顔色が変わった。
「でも、買えないよ、一個で三文もするんだよ」
「本当だ。高い」
値段的に言うと、私たち、十二才位の子供にとっては、一か月のお小遣いのほとんどを使ってしまう位だ。
そこに、お宮様が現れて。
「全部下さい」
「「全部~!」」
二人で大声を出してしまった。
「あら、学友の、青さんと花さん」
「「はい」」
「もしかして、食べたいのかしら?」
「はい」
「それなら、どうぞ」
何のためらいも無く豆大福を渡してくれた。一口食べると。
「モチモチして甘い」
「うん、おいしい」
甘い味とモチモチの外側が、絶妙な味を出していて感動していると。
「食べたわね」
お宮様が目を光らせた。
「……何?」
「あなたは、確か貸本屋の娘よね? たまに、貸本屋でみるものね」
「はい、そうですけど……」
「もしよろしければ、私の書いた本を並べてくれない」
「ええ~」
急な話に困ってしまった。
「えっと、そう言うのは、私が決められることではなくて、大人が決めることだから、無理なんです」
「やっぱり、そうよね、あなたの父上に相談するから、一緒に行くわよ」
お宮様は、そう言ってついて来る。
(ギャー)
心の中で困っていた。
(お父さん、どうにかして~)
「青ちゃん、なんだか大変そうだし、私は、買い物して帰るね」
花ちゃんは、関わりたくないように、去っていった。
(見捨てないでよ~)
心の中で、花ちゃんの肩をつかみたかった。
☆ ● ☆
そして、家に着くと、貸本屋だけに、本がたくさん並んでいる。私の家は、木で出来た小さな家だ。部屋も一階に2つ、二階に1つ、二階が青の部屋だ。
「あら、お宮様」
「はい、お宮です」
「今日は、どうしたのかしら?」
お母さんが、ゆっくり話をしている。
「あの、ですね、本を並べてもらおうと思いまして」
「何のですか? 愛猫物語の貸本権は、まだ手に入っていないのですが、なにか、読みたい本でもあったのですか?」
「いいえ、私の書いた本を並べてください」
そう言うと、帳簿を書いていたお父さんが。
「お嬢様、お金で解決できると思っているようだが、貸本屋だって信頼商売なんだ。つまらない本は置けないよ」
「つまらないですって、読んでもいないのに、決めつける気ですか?」
「わかるよ、君はね、才能がない口だ」
「なっ!」
お宮様は怒っている。
「もっと、修行しておいで」
「でも、青さんは、桃山堂の豆大福を食べました」
「そのお金を返せば納得してくれるか? それとも、俺を脅して置いてもらって満足なのか?」
「いいえ」
お宮様が、店からかけて行った。
「青、今、お宮様の書いた本読んでいるが、お宮様の書いた小説は、形は出来ているんだけれども、つつましすぎるな」
「えっ?」
「青、追いかけて言ってやれ、金取れる作品書いたら置いてやるって」
「うん」
私は、走ってお宮様を追いかけた。
「お宮様~」
探すが、なかなか見つからない。
「どこです、お宮様~」
人ごみの中で泣いている女の子がいた。
「お宮様」
「何? 笑いに来たの?」
イライラした顔でそう言う。
「お父さんが言っていたんだけど、お宮様の作品は、つつましやかなんだって」
「えっ?」
「たぶん、あっと驚く展開とかが必要なのかな?」
「あっと驚く」
お宮様は気が付いたように。
「そう言えば、あまり起伏の無い話だったかもしれない」
「それでね、お金を払いたくなるほどの本を書いたら置いてくれるって」
「そう、それなら、青さん、協力しなさい」
「えっ? 何を?」
「あなたが、小説を書くのよ」
「ええ~!」
「私が、全面協力してあげるから」
「無理です」
「大丈夫、あなたは、貸本屋の娘よ、本は読んでいるはず」
「でも、お宮様みたいにたくさん読んでいるわけではありませんし、読むのと書くのでは全く違うと思います」
「そうね、だからこそあなたなの」
「???」
?模様を飛ばしていると。
「あなたには、才能の匂いがするのよ」
「へ?」
「あなたはおもしろい話を書く気がするわ」
「ええ~!」
驚いていると。
「どうしたの?」
「ちょっと、話をしていただけ、考えてみてね」
「お宮様!」
名前を呼ぶが無視される。そこに丁度良く花ちゃんが歩いてきた。
「どうしたの? 青ちゃん」
「小説書くことになっちゃった」
「え~! どういうこと?」
花ちゃんも驚いているようだ。
「お宮様が全面協力してくれるって言うんだけど、本を書いて貸本屋に置くんだって」
「それって、考えようによってはすごいいい事だよね」
「えっ!」
言われてみれば、稼げるのだからいい事だ。
「やってみようかな」
「うん、その意気だよ」
花ちゃんに背中を押されて、やってみることにした。
☆ ● ☆
家に帰って。
「お父さん、私に小説の書き方を教えて」
「小説の書き方だと、そんな物カンで大丈夫だ」
「はあ?」
「書きたいものを書けばいいんだよ、最初は、技術より、楽しく書くことだ」
「う~ん、書きたいものね~」
「なんだ、貸本屋で本を出すのか? 青が?」
「うん、そのつもり」
「そうか、その時は、『十兵衛』って名前やるよ」
「えっ?」
「世代交代だよ、十兵衛も」
「やだ、青だから、群青娘とかがいい」
「いつか、十兵衛のありがたみが分かるよ」
「本当?」
お父さんは、楽しそうに笑っている。
☆ ● ☆
その夜、お母さんと寝ていると。
「青、貸本屋に本を出すんだって」
「うん」
「そんなに甘くないよ」
お母さんは、いつも優しいのに、きつい声で言った。
「そうだよね、甘くないよね」
「ええ、とっても厳しい世界なのよ」
「お母さん、私はまだ、書きたいものも見つからないんだ」
「そう、それなら、まだ、大丈夫ね」
お母さんは悲しそうだった。
(貸本屋に本をだすって、そんなにダメなことなのかな?)
その夜は、なかなか寝つけなかった。
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